第85話 暴走
『ファーヴニル出現! ただちに対処してください! 繰り返します!』
「くくっ、出ましたか邪龍。貴様を狩り殺してこそドラガンゼイドは完成を迎えます!」
ファーヴニル出現の報告を受け、晃偉がドラガンゼイドの出撃準備を進めるように指示を出している。
一方、彩花と彩葉は念のためにアサルトの調整を行っていた。どうしても、ドラガンゼイドに対する不安を拭いきれない。
今まさに目の前でホロゥのエネルギーを注入されている。これが、正気の沙汰とは思えなかった。
エネルギー問題は課題にしても、敵性存在のエネルギーがどのような影響を与えるのか分からない段階での使用は素人目に見ても危険すぎる。
ただ、興奮状態の晃偉はそのことがすっかり頭から抜けているようで、ずっと手元の端末に向かって話しかけていた。
「大丈夫、だよね? 優衣ちゃんが制御してるなら……」
「……どうだろうね」
彩葉からの質問には答えを濁す。先ほどからずっと逃げろと勘が告げていて、どうにも落ち着かず嫌な気分だった。
彩花がアサルトの近接形態を確認していると、部屋の扉が開いて白衣を身につけた女性が慌てて入ってくる。
「どういうつもりですか!? あれを実戦投入するなど正気とは思えない!」
「……佐藤博士、いいですか? ファーヴニルを倒すにはもうドラガンゼイドしかない。あんな化け物の相手をワルキューレの皆さんに任せるなどそちらの方があり得ない」
どうやらエネルギー研究をしていた博士のようだった。
晃偉の返答を聞き胸元を掴みかかるように詰め寄っていく。
「私たちのプロジェクトはエネルギーがどのような力を持っているか、そして複製が可能かを確認しただけに過ぎない! そもそもあれは捕らえたホロゥを活動限界で逃がさないためのものです! ドラガンゼイドへの転用は想定しておらず、どんな影響を与えることになるかは予想もできませんよ!」
「それは承知しています。が、現状無尽蔵に近いエネルギーはHLエネルギーのみなんですよ。すべてはワルキューレを守るためなんです」
「それが我々イズモ機関の理念で、私もそのために研究を続けています。でも、これが逆にワルキューレの命を奪うかもしれないとどうして気づけない?」
「ご心配はごもっとも。ですが、制御面では何の問題も……」
そう、晃偉が言いかけた時だった。
通話状態を維持していた端末から優衣の不思議な言葉が聞こえてくる。
『何、これは?』
「……優衣?」
『声が聞こえる……いや、歌……? 違う、これは声……命令…………』
通話が途切れた。
同時に、いくつもの計器が警告音を発してけたたましいアラームが鳴り響く。
「優衣? 優衣!?」
『警告。ドラガンゼイドに異常発生。即時の緊急停止を推奨します』
「ドラガンゼイドデータリンク途絶……! 優衣ちゃんとのアストラルコードとのエンゲージも消えて……いや、アストラルコード自体との接続が切れました! 反応消失!? 優衣ちゃん!」
「緊急停止プログラムだ! 急げ! 早くしろ! アストラルコードのサルベージ作業もやるんだよ!」
「さっきから必死にやってんだよ! でも、ダメだ! 一切のコマンドを受け付けない! は、博士どうしたら!?」
研究員たちが慌てふためく中、晃偉は端末を落として呆然としていた。
ドラガンゼイドが勝手に動き出す。各部のドリルを回転させ、自己を確かめるような動きをした後に吼えた。声量で鼓膜が打ち震わされる。
ついには操作を行う電子ボードがショートして爆発した。数人が火傷と感電による負傷をし、外部からのアクセス手段がなくなる。
佐藤博士が壁に付けられていた小さなガラスを破壊し、レバーに手をかけた。
すると、ただ端末を眺めていただけの晃偉が慌ててレバーの手を払いのける。
「何を!?」
「それだけはやめてくれ! まだアストラルコードのサルベージができてない!」
「言ってる場合ですか!? 今すぐあの部屋を隔離してドラガンゼイドごと自爆システムで吹き飛ばさないと甚大な被害が出てしまう!」
『警告! 警告! ドラガンゼイドが暴走状態です! 緊急停止、もしくは破却手順に従った速やかな破壊を実行してください!』
機械音声の警告がより強い緊張感のある言葉で対処を要求してくる。
「気持ちは分かります! ですが、もう手遅れです!」
「待て! 待ってくれ! 打つ手はあるはずなんだ!」
「いい加減に……!」
「伏せて!!」
彩花がアサルトを盾にして防御態勢を取った。彩葉が彩花の背中に隠れる。
直後、ドラガンゼイドからの機銃掃射による弾丸が室内をめちゃくちゃに破壊した。佐藤博士も研究員たちも体をズタズタにされて息絶える。
彩花と彩葉、晃偉だけが生き残り、ドラガンゼイドは攻撃を停止して反対側の壁へと移動を始めた。
「町に出るつもりだ!」
「叔父さん! 破壊して!」
「……ッ! うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
大きく叫び、涙を流してレバーを引いた。引くしかなかった。
だが――、
「……何も、起きない?」
辛うじて生き残っていた電子パネルには、赤い文字で無情にもエラーの文字が表示されていた。先ほどの攻撃で自爆システムも機能しなくなっていたのだ。
ドラガンゼイドが口を開いた。壁に向かって赤い光が向けられる。
ドラガンゼイドからブレスキャノンが発射された。壁は破壊され、施設からの脱走を許してしまう結果になってしまう。
急いで後を追う彩花だったが、最悪の光景が広がる予想が頭から離れなかった。
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