第86話 暴虐の機龍

 愛鷹山の山麓から赤いビームが天に昇る。

 山肌を切り裂き、抉り、破砕された破片が富士市に降り注いだ。いくつもの建物が押し潰され、砕ける。

 爆発が連続し、大きな穴が穿たれる。

 その光景を睨みながら、ファーヴニルが興奮状態で吼えた。咆哮で周囲のガラスが割れる。

 ファーヴニルの叫びに応えるように、愛鷹山から巨大な金属のドラゴン――ドラガンゼイドが出てくる。

 ドラガンゼイドは、町にまで歩いてくると口を大きく開いた。赤い輝きが周辺を照らしている。

 ビーム攻撃はすぐに放たれた。

 ビルを切り裂き、あらゆる建物をなぎ払い、人々の断末魔を響かせて一切を蹂躙していく。

 あまりにも惨い殺戮に外にいた百合花たちは絶句した。


「なにあいつ……ホロゥなの……!?」

「そんな……五百人近くが避難していた場所が跡形もなく……」

「深紅の滅び……悪しきドラゴンを模した趣味の悪い化け物が……ッ!」


 自身の周囲を一掃したドラガンゼイドが咆哮を発した。

 ファーヴニルも再び吼え、ドラガンゼイドへと向かっていく。対するドラガンゼイドもファーヴニルへと駆けだした。

 ファーヴニルはドラガンゼイドを敵だと認識し、ドラガンゼイドも暴走状態とは言え、組み込まれたホロゥ抹殺プログラムに従って目の前のホロゥ全てを排除しようと動いている。

 ファーヴニルを援護するように百合花たちが討ち漏らしていたホロゥたちが集まって攻撃を仕掛けた。

 走るドラガンゼイドの肩部が盛り上がる。と、同時に脇腹に当たる部分も回転して開いた。

 肩からはミサイル、脇腹からドローンが飛びだしてホロゥたちを攻撃する。

 ミサイルは途中で無数の子爆弾に分離し、ファーヴニルを中心に地上にいる雑魚を襲った。

 子爆弾でも威力は絶大で、ファーヴニルを怯ませ小型ホロゥを一撃で即死させる。

 ドローンはマシンガンとビームを同時に使って空中のホロゥを駆除しており、ファーヴニルとドラガンゼイドの一騎討ちを邪魔させないようにしていた。

 両者が激しくぶつかり合った。互いに衝撃で一歩引く。

 ドラガンゼイドの背中からいくつものジェットノズルが顔を覗かせる。

 ファーヴニルが体勢を立て直すよりも早く急加速。右手の回転ノコギリを全力稼働させてファーヴニルの顔にパンチを決める。

 間合いを急速に詰められたファーヴニルはもろに一撃をもらい、派手に転倒する。今の攻撃で右の眼球が砕けていた。

 倒れたファーヴニルをつかみあげると、今度はまだ無事なビルに思いっきり叩きつける攻撃が行われる。

 鉄骨が至る所に突き刺さり、苦しげな声が漏れた。

 ドラガンゼイドの攻撃は止まらない。

 ファーヴニルの首を締め上げ、回転ノコギリで削りながら開いたもう片方の手で顔にパンチを打ち込んでいく。それが右左と連続するものだから顔の装甲は限界だ。当然、首を絞めている間も体に搭載されているマシンガンによる射撃は怠らない。

 深い亀裂が生じ、あらゆる場所が砕けている。

 どうしようもないと判断し、活動限界まで時間を稼ごうとしていた相手がなすすべもなく蹂躙される様子を目の当たりにし、樹が震えている。百合花も自分の目を疑っていた。


「強すぎるでしょ……」

「あんなのどう戦えばいいの……!?」


 投げ捨てられたファーヴニル。その砕けた喉元から火の粉が漏れる。


「ッ! ブレス攻撃!」


 ファーヴニルがドラガンゼイドへと渾身のブレスを放つ。

 超火力のブレスに対抗し、ドラガンゼイドもブレスキャノンで応戦した。互いのブレスが拮抗し、大気が引き裂かれてプラズマが拡散される。

 必死な様子のファーヴニルだが、ドラガンゼイドは余力を残していた。

 コンピューターは威力が拮抗していると演算し、さらに出力を増大させる。もちろん、それも他のシステムになんら影響のない範囲でだ。

 それでも、ブレスキャノンはファーヴニルのブレスをかき消し、本体を直撃した。胸部中央を貫き、周辺までも融解させる。


「嘘でしょ!? 核シェルターの防壁を貫通したファーヴニルのブレスを!」


 打ち破られるなど想像もしていなかった。

 ドラガンゼイドの持つ火力に理解が追いつかない。

 驚く百合花たちの前で、ドラガンゼイドは倒れたファーヴニルの口を無理やり開かせる。

 抵抗してもがくファーヴニルに対し、容赦なくブレスキャノンが放たれた。

 口へ直接打ち込まれ、体の内側から溶かされていく。事前の攻撃で既に限界だった外部装甲にもこれで終わりが来た。

 体内を灼かれ、溶かされ、体を真っ二つに切断される。

 断末魔すら発することを許されず、呆気なくファーヴニルが消滅した。時を同じくして、周辺にいたホロゥも最後の一体がドローンに駆逐される。

 ドローンを回収し、ドラガンゼイドが動きを止める。


「終わった……?」

「もしかして……味方なのかな?」


 などと百合花が考えるが、それは大きな間違いだった。

 再び動き始めるドラガンゼイド。

 顔を大勢の人が避難しているテーマパークへ向けると、あろうことかその場所に向かって肩からクラスターミサイルを撃ち始めた。

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