第45話 学園襲撃

 ――話は少し遡る。


 校舎へと飛ばされた触手は早く、全速力で走っても彩花が追いつくのには時間がかかった。

 ようやく戻ってくると、次にやらなくてはならないのが触手の捜索。が、こちらは最悪な形ですんなりと終わる。

 カフェテリア近くの外壁に食い破られたような穴が見つかった。カフェテリアからは悲鳴が聞こえ続けている。


「しまった!」


 すぐに穴から飛び込んで戦闘態勢を取る。

 カフェテリア内では、多くの生徒たちがアサルトを振るっている。夜叉の触手が変化したものと思われる口の付いた球体と必死の戦いを繰り広げていた。

 球体は捕食攻撃しかしてこない。だが、素早く、それでいて口の大きさも自在に変えることが出来るために大勢が犠牲になっていた。元が禍神の一部なだけに、一般的なワルキューレのリリカルパワーでは歯が立たない。

 正面から噛みついてくる球体をアサルトで防御する少女。が、球体は舌を突き出して少女の腹を貫いた。


「かはっ……」

「舌にそんな威力が!?」


 驚く彩花の前で少女が喰われた。

 別の所では、第二世代の少女がリリカルパワーをシールドに使って捕食から身を守ろうとしていた。だが、球体は何度も噛みついてシールドを無効化しようとしている。

 しつこい球体の前にシールドが砕けた。無防備になった少女に球体が噛みつく。

 頭から食べられ、暴れる少女。やがてその体も少しずつ飲み込まれて咀嚼されていく。口が動く度に血が飛んだ。

 別の場所では、盾状態のアサルトで負傷した友だちを守ろうとしている少女までいる。球体は容赦なく舌を突き出して二人を串刺しにしようと――


「何度もやらせはしない!!」


 舌が伸ばされた瞬間に横合いから彩花が舌を切断する。

 すぐさま切り返して口を真横に切り裂いた。球体を両断し、破壊する。

 既に何人か食べていたのだろう。球体からは血に濡れた腕などが転がり出てくる。

 後ろの二人を抱きかかえ、球体をさらに一つ破壊してカフェテリアの入り口へと跳躍した。


「逃げて。これ以上は戦えないでしょ」

「は、はい!」


 二人を逃がし、残った人数と球体を確認する。

 新たに一人殺されそうになっていた少女を救い出し、球体を攻撃しながら叫ぶ。


「陣形を組み直します! これからは私の指示で動いて!」

「彩花様!?」

「彩花ちゃんいけるの!?」

「私を信じて! 球体の正面での戦闘は極力避けるように! 横と後ろから攻撃して注意を惹きつつ私の所まで誘導! 後は私が全滅させるから! 近接アサルトじゃないワルキューレは即刻逃げて!」

「「「了解!!」」」


 彩花の指示が瞬時に伝わり、言われたとおりの戦闘を仕掛けていく。

 カフェテリア中央に彩花が陣取り、近くを通過する球体に攻撃を叩き込む。

 他のワルキューレたちも、走りながら球体の側面に斬撃を入れて逃げる。自分に狙いを移させ、しっかり引き寄せたところで彩花がトドメを刺して破壊する。

 作戦は順調に進んでいた。彩花が指揮を執り始めてから新しく犠牲者などは出ていない。

 追加でさらに一つ球体を破壊する。


「彩花さん! 今ので最後よ!」

「分かりました!」


 カフェテリア内の球体をすべて破壊することに成功した。戦った全員が疲れたようにその場で座り込む。


「お疲れ様。私、もう行くね!」

「彩花様。その、百合花ちゃんたちは……」


 不安そうな後輩の頭を優しく撫でてやる。


「絶対に勝てる。相手が禍神だろうと……!」

「禍神……。彩花様。百合花ちゃんたちに死なないでって伝えてもらえませんか?」


 力強く頷いて了承する。

 安心したのか、少女がふっと意識を失ったように眠りに落ちた。胸ポケットから転がり落ちたフノスの輝きは完全に失われている。


(全力で戦ったんだ。私ももう一踏ん張り)


 何か、できることがあるかもしれない。そのために戦場に急いで戻る。

 その時、三年生のワルキューレがカフェテリアに駆け込んでくる。


「彩花ちゃん! 球体が二つ飛び去っていく!」

「なっ!? しまった取りこぼしか!」


 第三世代であることを活かし、百合花や神子がやっていたように空中に足場を展開して加速する。

 しばらく走り続けると、わずかに球体らしきものが見えた。


「絶対に落とす! 夜叉に渡さない!」


 さらに加速するが、球体も彩花の接近に気付き同じく加速した。

 距離が一向に縮まらない。彩花が悔しそうに歯がみする。

 やがて、百合花たちが戦っている光景が見えてきた。もう間に合わないと、最後の望みを彩葉に託して叫ぶ――

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