第39話 勝ちへの一手

 ブースターを破壊されたことにより、バルムンクの攻撃能力と機動力が目に見えて低下した。

 怒りに燃えるバルムンクが叫び、体内に残った全電力を解放する。

 知性の高いバルムンクは、この行動でエネルギー消費と攻撃能力を一時的に大きく増大させて数人を殺して逃げようとしているのだ。

 青かった雷が赤く変色する。空気が痺れ、静電気に似た電流が百合花たちの肌を刺した。

 バルムンクの背中が一部砕ける。中からは刃のような羽が無数に付いた翼が出現した。


「ちょっとちょっとこんなの聞いてないわよ!」

「第二形態、ってところですか」

「あの翼……見るからに危なそうなんだけど」


 バルムンクが走り出そうとしたため、すぐに百合花たちも迎撃の用意をする。

 バルムンクは回転しながら飛びかかってきた。羽が周囲一帯に飛散していく。

 刃が弾丸のような速度で飛んできたも同じだ。人体など易々と破壊する威力の猛威が振りまかれる。

 それらすべてを受け流し、その隙にバルムンクの懐深くに百合花と樹が潜り込んだ。

 回転を強制的に押し止めた樹。バルムンクの体と樹のアサルトが激しく擦れ合って火花が舞い散る。

 百合花が大きく飛び上がった。続いて殺姫も攻撃を仕掛ける。

 樹を弾いて意識を百合花たちへと向けてくるが、反応速度はあっても反射速度はない。

 前脚による防御は明らかに遅かった。百合花たちの攻撃が先に決まる。

 翼の根元を二人同時に攻撃する。切断とまではいかなかったが、亀裂を生じさせることには成功した。傷口から赤い稲妻が迸っている。

 飛び退いた二人と入れ替わりで彩花が踏み込んだ。同時に彩葉からの狙撃が飛んでくる。

 事前にマズルフラッシュを確認していたバルムンクが跳躍して狙撃を回避する。


「香織ちゃん! アサルトの全力攻撃!」

「はいっ!」


 彩花の指示通りにジェット加速も発動させて香織がアサルトを振り抜いた。

 彩葉の弾丸は香織のアサルトに打ち返されて向きを正反対に変えた。バルムンクの後頭部へと直撃する。


「怯んだ! 総攻撃!」

「「「はい!」」」


 彩花が背中に飛び移り、百合花たちが刻んだ亀裂に強烈な一撃を叩き込んで離脱する。

 苦痛でたじろいだ一瞬で香織のアサルトが顔を直撃し、全面に亀裂を生じさせた。顔へのこの一撃は非常に大きい。

 雷を飛ばして香織を殺そうとしたが、遠方から静香が射撃して雷の軌道を逸らすことに成功する。

 雷を躱して葵が飛び込み攻撃し、駆け抜けた直後に殺姫と樹による素早い斬撃が襲いかかる。

 バルムンクは、翼を最大限に展開して羽をスコールのように飛ばしてきた。さすがのこの攻撃にはたまらず、二人が攻撃を中断する。

 それでも、刃のスコールを突っ切る存在もいた。

 千代がアサルトを盾の形態に変え、傘のようにしながら嵐の中に道筋を作り出す。それで生まれたわずかな生存領域を百合花が駆け抜けていく。

 羽の射程外まで百合花が迫ってくると、たまらずバルムンクが飛び下がる。

 だが、これも百合花の狙い通り。

 バカの一つ覚えのようにひたすら回避として飛び下がり続けたバルムンクは、近くの建物に体を打ち付けてバランスを崩した。

 市街戦で短絡的な行動を取り続けるとどうなるのか分かるいい教訓にはなっただろうが、その代償は大きい。

 百合花が全力で振るったアサルトは、寸分の狂いなく翼根元の亀裂へと吸い込まれた。滑らかに刃がすり抜け、片側の翼の切断に成功する。

 バルムンクはもう片方の翼を使って百合花を振り払うと、さらなる追撃を阻止するために周囲への放電を行う。

 百合花を打ち据えようとした雷を千代が切り裂いた。おまけとばかりに殺姫がバルムンクの下を滑るように通り抜けて脇腹の古傷を抉っていく。


「あと一息なんだ!」

「バルムンクの動きが目に見えて衰えてる! 勝てるよ!!」

『司令部より現場のワルキューレへ! 目標、沈黙寸前! エネルギー量から推測するに活動限界も間近と思われる! 撃破を急いでください!』


 司令部から明確に倒せ、との言葉。

 人類史上最大級の悪夢であるバルムンク。その喉元に刃を突きつけた状態に持ち込むことができている。

 初めての討伐に現実味が見え始めた。残る力を出し切って最後の奮闘へと移行する。

 司令部からの通信は続いた。


『先ほど霞ヶ浦で数体のタイラント種が出現とのこと! 自衛隊はそちらの対処に向かいました!』

『今バルムンクを討てるのは君たちだけだ。鎌倉の町を守ってくれ。勇敢なる乙女たち!』

「「「了解!!」」」


 これまでで一番大きな咆哮が轟いた。

 断末魔とも最後の足掻きとも取れるバルムンクの咆哮。その声は学園にまで届き、待機中の生徒たちが背筋を震わせる。

 が、それとは対照的に百合花たちは笑みを浮かべていた。

 確実にトドメを刺せる。そんな予感が全員の胸中にあった。


「全員で香織ちゃんと殺姫ちゃんを援護! 二人がバルムンクに届いたら私たちの勝ちだから!」

「今度こそその首落としてあげるわ……!」


 先陣を樹が切り、後に続くように陣形を組んで最後の猛攻を仕掛けていく。

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