第37話 リベンジアタック

 そして、遂にその日が訪れた。

 夕焼けで空が朱色に染まりゆく頃、鳴り響くヘイムダルの角笛。

 その鳴り方、遠くにいても感じる歪な殺気がバルムンクと類似しているということから、百合花たちがアサルトを構えて現場へと走って行く。

 学園側は自衛隊にも連絡し、他の生徒たちには禁忌指定タイラント種出現の可能性があるとして待機命令を発令した。百合花たちであれば、少なくとも接戦に持ち込めると出撃を許可したのは、これまでの努力をしっかりと学園長が見ていたからだ。

 偶然か、ホロゥ出現の渦は前回のバルムンク出現の時と全く同じ場所に発生していた。

 近くに寄るとはっきり分かる。渦の向こう側から漏れ出してくる殺気は、確実にバルムンクのものだ。


「リベンジね……今度こそ負けない!」

「覚悟してもらいましょうか。全身ズタボロにしてあげる……ッ!」


 各々がバルムンクへの敵愾心をたぎらせる。

 渦に亀裂が生じた。バルムンクからの不意打ちを警戒してアサルトを正面に構える。

 一瞬青白い光が見えた。


「回避! 放電攻撃がとんでくる!」


 百合花が叫ぶと、次の瞬間には青白い電撃が球体となって渦から放たれた。後を追うようにバルムンクも飛び出してくる。

 球体は周囲の建物に着弾し、雷撃を拡散しながら爆発する。

 それらを見事に回避し、百合花はアサルトを剣の形態に変形させて前方へと斬りかかった。

 黒煙を突き抜けてバルムンクが前脚を凪いでくる。放たれた爪による攻撃とぶつかり合い、火花が散った。

 そのわずかな火花で位置を確認した彩葉が後方から狙撃する。

 弾丸はバルムンクの顔に命中した。眉間に突き刺さり、わずかにヒビを生み出す。

 飛び退いたバルムンクの背後から殺姫と葵、香織が攻撃を仕掛けた。左右からは彩花と樹が突進を仕掛ける。

 バルムンクが完全に行き場をなくした。どの方位に逃げても誰かがいる。

 刹那の時間動きを止めたバルムンク。その隙を逃すことなく百合花が踏み込んで追撃を仕掛けた。

 先ほどぶつかり合った際に、このバルムンクが前回出現したバルムンクと同じリターンホロゥであることは確認済みだ。ならば、必ず倒さなくてはという思いが強くなる。

 狙うは一カ所。彩葉が狙撃でダメージを与えた顔の眉間。


「そこ!」


 飛び込んできた百合花の攻撃を、顔を逸らすことで回避したが、傾けた瞬間バルムンクの瞳は樹の姿を捉えた。


「あたしにそんな無防備な姿を晒すとどうなるか! きっちり体に教えてあげる!!」

「援護します!」


 樹から少し離れた所から千代がガトリングを乱射する。

 二人の相性はピッタリで、樹の素早い連続斬撃で大きく削った体に千代の弾が次々命中していく。一発も樹に誤射することがない。

 たまらずバルムンクが体を転がす。すると今度は彩花の攻撃圏内に入ってしまった。


「潰してあげる!」


 先行して彩葉が狙撃でダメージを与える。間髪入れずに彩花が彩葉が攻撃した場所に斬撃を叩き込んでいく。

 打ち合わせをしたわけでもない突発的な連携。それでもここまで完璧に決まるのは、信頼し合っている姉妹だから。

 体の両側に損傷を作ったバルムンクが叫ぶ。まさかこれほどまでとは思わなかったに違いない。

 後ろから迫る葵と香織に蹴りを放つ。が、二人はその攻撃を利用してアサルトをぶつけると、反動を生み出してバルムンクの背中に張り付いた。二人同時にバルムンクのブースターへと攻撃を仕掛ける。


「「やあぁぁぁぁぁ!!」」

「よしいけっ!」

「決まった!」


 至近距離から放たれる一撃で、ブースターから鈍い音が聞こえた。

 二人がすぐに飛び退く。その直後に殺姫が大鎌を振り抜いた。


「砕け散れ!!」


 殺姫の攻撃が両方のブースターへと吸い込まれた。

 葵と香織が損壊を与えた部位にさらなる打撃を与え、大きく亀裂を生じさせる。


「ブースター破壊成功!?」

「これで攻撃力が落ちるかも……!」

「待って! 様子が……」


 喜びかける百合花たちを彩花が制止し、注意深くバルムンクの様子を観察する。

 苦しそうに体を振るわせながらも、目は怒りに燃えていた。ブースターもいまだに青白い発光を見せている。

 バルムンクが吠えた。同時に、ブースターが逆回転を始めて黒い煙のようなものを周囲へと拡散していく。

 思わず百合花が構えるが、煙は体に触れても何も起きない。精々、異臭がするだけだ。


「って、異臭!? この臭いまさか!?」

「百合花?」

「今すぐリリカルパワーをシールドに! 第一世代は即刻退避!」


 バルムンクが再度咆哮した。同時に、黒雲を頭上に生み出して巨大な落雷を発生させる。

 落雷が煙に触れた瞬間、煙は次々と大爆発を引き起こした。爆炎が百合花たちを呑み込む。


「「「きゃあああああ!?」」」


 バルムンクが放出したのは、可燃性のガス。そこに落雷を落とすことでガス爆発を引き起こし、攻撃してきたのだ。

 シールドで守ったとはいえ、かなりの衝撃。

 まさかそんな攻撃手段まで持っていたとは思わず、忌々しげに百合花は鋭い目を向ける。


「そう簡単にはくたばらないってこと?」


 憤怒の形相を浮かべるバルムンクと睨み合う。

 互いに強烈な攻撃を相手に叩き込んでの開戦。絶対に負けられないと百合花が強くアサルトを握り直した。

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