第33話 リジェネレーター
昼食を食べた樹は、千代を連れて百合花のお見舞いに向かっていた。
医務室に向かうまでの道中、外部から来た医者と学園専属の医者、そして、それとは別に二人いる養護教諭のうちの一人とすれ違った。
「信じられんな。この短時間で回復するとは」
「本当に第三世代って何でもできるんですね。ちょっと羨ましいかも」
「でも、あれは本当に第三世代の能力なのかしら?」
何やら首を傾げながら歩いていく三人。
会話の内容から、もしかすると百合花が目を覚ましたのではないかと思って早足で部屋へと向かった。
千代が追いついたタイミングで勢いよくドアをスライドさせる。
「百合花!」
「あ、樹さん!」
「樹? 来てくれたんだ」
部屋に入ると同時、リンゴを剥く静香と元気そうな百合花の姿が見える。
昨日、あれだけの大怪我を負ったというのにもう普通に会話できるまで回復したというのは確かに異常だが、今の樹はそんなことなど気にしていなかった。
ただ、千代は明らかに戸惑いの表情を浮かべていて、恐る恐る質問を投げかける。
「早すぎませんか? いや、百合花様が元気なのは良いことですが」
「お医者さんにも同じ事を言われたよ。でも、平気。私にはリジェネレーターがあるからね」
「リジェネレーター?」
聞き慣れない言葉に千代が首を傾げた。
「あっ、ごめん。リジェネレーターってのは、リリカルパワーを使って傷を修復する力のことなんだ。おかげでほら、フノスがね……」
百合花が取り出したフノスの輝きは薄い。
バルムンク戦で相当消費したというのもあるだろうが、百合花の話を信じるなら回復するためにさらに力を使ったという事になる。
ただ、そんなデタラメな力は聞いたことがない。千代はさらなる疑問符を頭に浮かべていた。
「そんな力今まで……」
「私にもよく使い方は分からないの。ただ、眠っているときにふと夢の中でぼんやりとした感覚があって、それで目覚めたら傷が治っている感じ?」
「余計に分からなくなりました……」
「私もどう説明して良いのやら。世界で私だけが使える力だって昔からお世話になってる先生が言ってた。リジェネレーターって名前もその先生がつけてくれて、第三世代の力の一部なんじゃないかってさ」
百合花にもよく分かっていない力。
直感ではあるが、千代にはこの力が第三世代の力ではないように思えた。
樹も第三世代だが、小さい頃からずっと一緒にいてそのようなことができる片鱗など見たことがない。もし第三世代の力なら、樹も同じ事ができるように思えるのだ。
千代が顎に手を添えて考え込んでしまうと、樹が千代の肩に手を回す。
「そんな小難しいことどうでもいいわよ! 百合花が目を覚ましたんだからそれでいいじゃない!」
「そうですよ! 千代さんも素直に喜びましょ! 考えても仕方のないことは無駄……って、これを私が言っちゃダメですかね?」
苦笑しながら静香が言う。
確かに、どんな形であれ百合花が目を覚ましたことは喜ばしい。それに医者が言うのだから本当に第三世代の能力の可能性もあった。
千代がそれ以上は何も言わず、百合花の復活を喜んでいると、部屋のドアが開く。
「え!? 百合花ちゃんもう目を覚ましたの!?」
「嘘……! あれだけの傷を負ったのに……!?」
「彩花様に彩葉様。ご心配をおかけしました」
「七十点。やっぱり復活早いですね」
「殺姫ちゃんも、心配してくれたみたいだね」
まだ残って訓練している神子と香織、葵以外の全員が百合花のために集まってきた。
自分のために多くの人が集まってくれたことが嬉しくなり、百合花は笑顔を浮かべる。
「リジェネレーターはいまだに健在なんですね」
「そうなの。眠っているときにしか発動できないけど」
「リジェネレーター? 何それ?」
「イズモ機関が存在するかもって研究している力だよね? 百合花ちゃんってバーストワルキューレなの?」
「純粋にワルキューレですよ!」
あんな組織と繋がっているとされてはたまらないと百合花が反論し、樹と殺姫が目を鋭くする。五十嵐も東郷も反イズモ機関の筆頭格だ。
いつものメンバーで少し騒がしくしていると、また新たに二人、部屋に入ってくる。
「お静かに。ここは病室、騒がしくするのはマナー違反ですよ」
「やぁやぁ百合花ちゃん! 君が寝ている間に君のアサルトを徹底的に分析させてもらったよ! きちんと直して改良も加えておいた……と、言いたいところだけど君のアサルトは変に手を加えると弱体化しそうだから修復だけにしておいたさ! 許してくれたまえ!」
「アイリーンさん。静かに、と言ったのが聞こえませんでした?」
生徒会長の夢と、何かとお騒がせなアイリーンだった。
「夢様にアイリーン様まで。って、その怪我どうしました?」
「百合花ちゃんは気にしなくて良いわ。これはアイリーンの自滅よ」
香織のアサルトの実演で壁に突っ込んだアイリーンの傷を不思議に思ったが、彩花が冷たくアイリーンを一蹴した。
「彩花酷い! どう思う夢様ぁ」
「後で壁の修理費を請求しておきますね。全額とは言いませんが覚悟してください」
「えぇ!? 彩葉助けて~」
「少しくらいなら……」
「お静かにと何度も言わせないでください。手短にいきましょうか」
呆れながら夢が場をとりまとめ、アイリーンに本題を話すように促す。
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