第18話 臨時ニュース

 学園での本格的な授業が始まった。

 朝から多くの一年生が教本を持って目当ての講義を聞きに廊下を歩いている。静香や千代も、ようやくの授業ということで期待しながら講義室に走って行った。

 しかし、今日は百合花と樹は別行動だ。二人とも、朝から単位認定室で試験を連続して受けている。

 高校の授業内容の基礎的な部分と、ワルキューレに必須のスキルや知識は一部応用レベルまで理解している二人だ。短時間で次々単位を取得していく。

 そんなこんなであっという間に午前の時間が終わった。午後からはアサルトの扱いに関する実技試験の申請をいれて二人で昼食のために学生食堂に向かう。

 少し早めに切り上げたために食堂はまだ空いていた。早速メニューを確認した樹が食堂のおばちゃんの元まで走って行く。


「注文お願いします! あたしは豚骨ラーメンチャーシュー追加トッピングで!」

「樹はまたラーメンなの?」

「美味しいんだもの! 百合花もラーメンどう?」

「今回は遠慮しておく。私は日替わり定食のAでお願いします」


 注文を聞いたおばちゃんが厨房に内容を伝える。

 料理ができる間にクレジットで決済して少し待っていると、受け取り口にラーメンと定食が届けられる。

 料理を持って二人は窓際の席に座る。鎌倉の町が一望できる特等席だ。

 座ると同時に樹がラーメンを啜る。麺にスープが絶妙なバランスで絡み合ったラーメンは美味しそうで、樹が幸せそうにしている。


「んっまぁぁぁー!」

「ほんと、美味しそうに食べるわよね樹って」

「本当に美味しいよ! ほら! 百合花も一口!」

「いや、私はいいよ」

「えー? まぁ私はもらうけどね」


 そう言うと、樹は百合花の定食からミニコロッケを一つ奪ってサッと口に放り込んだ。


「おぉ! ジャガイモほくほくだ!」

「あっ! じゃあ私もチャーシューくらいはいただくよ!」

「え!? 稀少なお肉が~!」

「追加でトッピングしたでしょうに……」


 大盛りのチャーシューから一つ横取りする。

 脂と肉質が最高で、かなりいいお肉を使っていることがよく分かった。

 お互いに相手と食べ物を交換した。顔を見合わせてクスクスと笑う。

 雑談しながら友だちとご飯を食べる穏やかな時間。これも青春の一つだと思ってなんだか楽しくなる。

 しばらく食事を楽しんでいると、ふと百合花たちの席の横で誰かが足を止めた。

 百合花が見上げると、三年生を示す緑色のリボンを着けた少女が立っていた。


「あら。百合花さんに樹さんね。ごきげんよう」

「ごきげんよう。……百合花の知り合い?」

「いや。でも、生徒会長の朝比奈夢様よ」


 綺麗な黒髪をサイドテールで整えた細身の少女――朝比奈夢。

 百合ヶ咲学園の生徒会長を務め、戦闘経験も豊富で実務作業も淡々とこなす周囲からの信頼も厚い万能型の彼女。

 そんな夢だが、今はその顔色に少し疲労が見えた。


「どうかしましたか?」

「今朝届いた国連からの通知でちょっとね。神子様の活躍はすごかったのだけど……」

「え、お姉ちゃんが何か?」

「あら、聞いてない? きっともうすぐテレビでも流れるんじゃないかしら?」


 夢がそう言った瞬間、テレビの画面が切り替わる。俳優が魚を釣り上げてコメントしている映像から一転、仮設で作られたスタジオにアナウンサーが座っているものに。


『臨時ニュースをお伝えします。まず、人類初の快挙からです。日本時間今朝四時頃に名古屋に出現した禁忌指定タイラント種の朱雀ですが、出現からおよそ二十分後に自衛隊の西園寺神子隊長率いる部隊により初めて禁忌指定種の討伐が成功しました。その後、国連の機関により討伐作戦案が立案され、実行可能と判断されたために禁忌指定種から朱雀の除名が決定しました』


 史上初の禁忌指定タイラント種の討伐報告。人類史に残る輝かしい偉業だった。

 ニュースを見ていた全員が大歓声をあげて喜んでいる。それほどまでに今回の一件は事が大きい。


『なお、西園寺神子隊長には、国連からエイルの固有名称を贈られることが決定したとのことです』

「へぇ~。お姉ちゃんが固有名称を……」

「すごいじゃん! やっぱり神子様には憧れるなぁ!」

「救済の意味を持つ名前。禁忌指定にも勝てると希望を得たからかしらね?」


 夢が呟く。

 特に輝かしい活躍をしたワルキューレに贈られる、北欧神話の戦乙女の名前。この名前を得ることがワルキューレにとっての最大の憧れなのだ。

 人類史上初めてホロゥを討った少女に贈られたシグルドリーヴァ、現在活躍するアメリカのゲイルスコグル、同じく中国のフリストに続く四人目の指名だった。

 さらに上のステージに進んだ姉を誇らしく思う。が、それにしては夢のテンションがわずかに低いことが気になった。

 その理由は次のニュースで明らかとなる。盛り上がっていた全員が静まるほどの恐怖を孕むニュースだった。


『続いての臨時ニュースです。三日前、エジプトで確認された新型のホロゥは玄武と呼称され、出現時のエネルギーを考えて新たに禁忌指定タイラント種に指定されました。また、学園都市出雲に甚大な被害を与えた犬型の新型ホロゥも禁忌指定される見通しです』

「……そういうことです。一体消えたのはいいけど、二体追加されて……。朝からデータベースの更新作業に追われて疲れてるの」

「それは……お疲れ様です」

「最近、世界各地で出現するホロゥの強さが増していると報告がきています。百合花さんたちも気をつけてね。私たちは人類を守るワルキューレだけど、学生でもあるんだから。生き残ることも大事なお役目ですよ」

「「はい!」」


 挨拶を交わして夢が離れていく。

 朗報と悲報を受け、これからどうなるのか少し考えながら百合花たちは食事を続けた。

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