第7話 1人は嫌(美亜視点)

 お待たせしました!

 遅くなってしまってすみません。また連載速度戻していきますので楽しんで読んでいただけると嬉しいです!




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「夏休みにバッグ買ってさ——」

「あのウォータースライダー最高だったよな」

「今日テストじゃねーか!」

「やばいやばい、課題忘れたっ」


 夏休み明けで浮かれた雰囲気のクラス。その中で私は一人席に座って本を読んでいた。読んでるものは芥川龍之介の羅生門……なんてことはなく。


「こんな風に恋したいなぁ〜」


「隣に引っ越してきたのは小悪魔系イケメンなお兄さんでした」という、ラブコメである。少女漫画風の小説で、イチャイチャ甘々な糖分補給に最適な小説だ。


「響夜くん今何しているかな〜?」


 想像をする。自分が彼と手を繋ぎ、隣で笑っているところを——。


『好きだよ

くん……』


 呼び合う本名。まるであの頃みたい。そして顔が近づき……。


「って、私は何を想像しているの……!」


 頭を振ってその想像(もはや妄想?)を振り払う。頬は熱を持ち、真っ赤になっていることだろう。


「はあ……やっぱり好きだなぁ……」


 右手を頬に当て独りごちる。再会した彼は以前よりずっと背が高くなり、声も低くなっていた。


「しかもあんなに男の子らしくなって……ふふっ」


 再会した直後に胸を揉まれたことを思い出す。


「恥ずかしいけど嬉しかったな……」


 そんな呟きは他に聞こえることなく教室のざわめきに溶けていく。


 その時だった。

 自分の方に近づいて来る女の子達に気づいて私は身体を硬くした。


 お願いだから来ないで!


 願い虚しく、私のところまで来た女の子たちのうちの1人、金髪のロングパーマの子がダンッ! と私の机に手をついて体を傾けるようにして顔を覗き込んでくる。


「な、何、花木さん」

「あんたさ、一個上の伊神先輩のこと、振ったんだって?」

「そ、そうだけど……」


 伊神先輩とはさっき付きまとってきた、あのだらしない男のことだ。そういえば……と、悪い予感がした。確かあの男ってサッカー部だったよね……。

 だが、その予感は珍しく外れた。


「ふーん、あんたにしてはいい判断してんじゃん」

「え?」

「伊神先輩は私のものだからあんたは手出さないでよね!」

「う、うん……」


 不機嫌そうに睨まれながら宣言されて内心で首をかしげる。いや、私のものって……。だいたい私は好きでつきまとわれてるわけじゃないんですけどっ!?


 心の中でツッコミを入れながらも、不機嫌な理由を察する。この金髪ロングパーマちゃん……サッカー部のマネージャーなのだ。そして伊神先輩のことが好きなのだろう。


 好きな男が他の女を口説いてたらまぁ嫌な気持ちになるよね、片思いだから余計に……。まぁその怒りが私に向くのは意味わからないんですけど!


 そんなことを思っていても口には出さない。が、次の瞬間。彼女はずいっと私に顔を近づけると睨みながら言った。


「可愛いからって調子乗るんじゃないわよ」

「っ……!」


 思わず唇をかみしめて俯く。周りの音が私の耳から消えた。教室のざわめきも色を失う。私の様子に満足したのか、彼女は取り巻きを連れて離れていった。


 私は顔を上げられなかった。


『可愛いからって調子乗るんじゃないわよ』


 似たようなことを何度も言われてきた。女子にも、男子にも。でも、こうやってお洒落するようになる前はもっとひどいことを言われていた。


『うわー地味』

『エロい体型してるよねー』


 そんな言葉が思い出される。


 小学生、中学生の時の私は地味だったから、陰気ャだったから、でも胸の発育だけは良くて早くから大きくなってたから、こんな言葉を投げつけられた。だから、高校入学と同時にイメチェンして華々しく高校デビューしよう! ……そう思ったのだが。


「どこで間違えたんだろう……」


 男子からは言い寄られるようになり、そのせいで女子からは嫌われる。それが現実だった。結果去年も今年も友達は1人もできず、中学生の時以上に私は一人ぼっちになってしまった。


 今だってこれはよくあることだから誰も気にも留めない。強いて言うなら男子たちが誰も近寄ってこないだけ。


 ——私が望んでいた高校生活じゃない。


 内心でボソッと呟く。これだから学校に来たくないのだ。

 窓から見える景色はなぜだか色褪せて見えた。




 ***




 放課後。

 あれから授業には身が入らなかった。常にぼんやりとしていて、先生にも注意されてしまった。注意された時の女の子たちの小さな笑い声が耳から離れない。

 

 家のベッドに制服のまま寝転がり、ぼんやりとしていると、不意に疑問が浮かぶ。


「こういう時、響夜くんならなんて言うかな」


 ——美亜は美亜。それでいいじゃん。


 ふと、声がした気がした。周りを見渡すが誰もいない。


「ふふっ、いかにも響夜くんが言いそうなことだね」


 苦笑する。会いたすぎて幻聴がするようになってしまったのだろうか。

 

「でも、やっぱり苦しいよ……」


 いつからか涙は出なくなった。昔はよく泣いていたのに。きっと泣きすぎて枯れてしまったに違いない。


 1人ということが、とても辛かった。


『もう嫌……どうしたらいいの……?』


 私は半ば無意識にSNSに投稿して目を瞑った。響夜くんからのDMもそっけなく返して。


「響夜くんにこんな姿、見せれるわけがないよ……」


 その呟きは、部屋の天井に吸い込まれていった。


 


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 読んでくださりありがとうございます!

 しばらくシリアスな展開が続いておりましたが、次回からは響夜がかっこよくなります!

 お楽しみに!

 








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