第1話 癒しから始まる一日
『おはようございます!』
『おはよう、朝から元気だね』
起き抜けに美少女からのおはようメッセージを見る……これを幸せと言わずして他に何を幸せと言えるのか。
と、アホなことを考えながら、制服に着替える。
今日から9月、学校が始まるのだ。
『朝から響夜くんと話せるのが嬉しいので!』
「うっ」
まさかの返信に思わずうめき声をあげてうずくまる。美少女にそんなこと言われて嬉しくないわけがない。だが、ぼんやりしていた頭ではキャパオーバーだったのだろう、いつもの冷静さを失い、顔がにやけてしまう。
『そ、それなら良かった』
『はい! それじゃあ、そろそろ行ってきますね。響夜くんもいってらっしゃい!』
『ありがとう。いってきます』
まるで夫婦のような会話。朝っぱらから何しているのだろうか。
やっと起き始めた頭で考えながら、パック牛乳を一気飲みする。
コーヒー? あんな苦いもの飲めるか!
子供っぽくてもなんでも俺はこれがいいんだ!
一人漫才を脳内で繰り広げる。……本当に俺は何をしているのだろうか。
「ほんじゃ、いってきます」
誰もいないリビングに声をかけると、高校に向かった。
***
「
「うわっ!?」
急に、背中に衝撃を受ける。誰かに抱きつかれた感触。前につんのめりそうになって、慌てて態勢を立て直す。
ちなみに、響というのは俺の本名だ。フルネームは
「ちょっ、
「ごめんごめん、君に会えたら嬉しくなっちゃって」
「男に言われても嬉しくねぇよ!」
顔だけ振り返った先にいたのは、薄茶の髪に、大きな濃いブラウンの瞳の美少女に見える美少年。俺の親友の
俺の言葉にテヘッと笑うこいつは本当に可愛くて、男だってわかってても惚れてしまいそう。
ってヤバイヤバイ、危うくアブノーマルな扉を開くところだった。
変な方向に行きかけた思考を頭を振って戻すと、俺は奏季を睨む。
「ほんと朝から元気だな。俺の周りはそういう奴しかいないのか……?」
「え、なになに、もしかしてやっと僕以外に友達ができたの?」
俺の呟きを拾って、奏季が興味津々と行った表情で俺の前に回り込んで来る。
「あ、いや、ちが……くはないか」
「え、ほんとに!? 本当に響くんに友達できたの!?」
奏季がびっくりした表情になる。こいつ……あまりといえばあまりの反応に、若干イラつく。しかし、否定できないのが悔しい。確かに俺は自他共に認めるぼっちで、友人はこいつ一人しかいないのだ。
「まぁ、そんな感じかな」
奏季は歯切れ悪い俺の言葉に表情をさらにニヤつかせる。
「もしかして……彼女、とか?」
「ブハッ。きゅ、急に何言ってるんだよ!?」
美亜のことを考えていた俺は、急な言葉に思わずむせる。な、なんでこいつはこんなに察しがいいんだよ!?
「え、もしかし図星? そっかそっか、響くんにもとうとう春が来たのか〜」
「来てない、来てないからな!? まだ!」
「まだ?」
「あっ」
思わず墓穴を掘る。俺は頭を抱えたくなった。
「ほうほうほうほ、さては気になる子ができたんだ〜? いいね〜甘酸っぱいね〜」
立ち止まってニヤニヤしている奏季にジト目を向ける。
「……もういい、先行くからな」
「あっ、ちょっと待って!」
俺はため息をつく。だが、久しぶりに会った友人の変わらぬ様子に、ちょっとだけ安堵したのだった。
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