やっぱり窓が欲しい!

※ミシェルの部屋が完成してしばらく経ってからのお話です。


「お嬢様、起きてください。学院に遅刻しますよ。お嬢様!」


う~ん、眩しいわね。これはライトの灯り?

ゆっくり目を覚ますと、怖い顔のルシアナがこちらを見ていた。


「お嬢様、毎日毎日起されて、恥ずかしくはないのですか?後半年足らずで貴族学院も卒業するのですよ!いい加減1人で起きてください!」


そう言って怒るルシアナ。


「でもね、ルシアナ。窓が無いから時間の感覚が全くわからないのよ。この部屋は年中真っ暗でしょう?だから今朝なのか昼なのか夜なのか、さっぱり分からないわ!」


「確かにそうかもしれませんが…」


そう、私が第二王子に誘拐されて以降、レオの過保護が酷くなったため、部屋の窓は取り壊され、夜は外からも鍵を掛けられていて、その鍵はレオが持っている。朝になり、やっとレオから鍵を受け取ったルシアナ達メイドが私を起しに来るのだ。


ちなみにレオの部屋に続く扉にも鍵が掛かっているが、レオが部屋にいる時は開いている。夜中何かあった時は、レオを訪ねて行く約束になっているのだ。


「それにしても本当に真っ暗ね。まるで囚人を捕らえておく地下牢みたい…」


本当にこんな部屋に居ては体に悪いわ。


「確かに窓が無いとどうも湿気が溜まってしまいますし、良くありませんね。レオ様に、もう一度窓を付けてもらえる様に頼んでみてはいかがですか?」


確かにそうよね。一度レオに相談してみよう。急いで着替えを済ませ、朝食を食べに食堂へと向かった。


「よう、寝坊助!やっと起きたか!」


朝からご機嫌のレオ。既に朝食を食べ始めていた。


「窓が無いから朝なのか夜なのかよく分からないのよ!いい加減窓を付けてくれてもいいのではなくって?これじゃあ、体調を崩れてしまうわ!」


そう訴えたのだが…


「ダメだ!いつまたミシェルを狙う者が来るかもしれないんだぞ!第一俺はもう二度とあんな思いはしたくないからな。結婚するまで後半年も無いんだ!結婚したら夫婦の寝室で一緒に寝られる。だからそれまでは我慢しろ!」


結婚したら、私たちは新たな部屋に移動する事になっている。その部屋は、真ん中に夫婦の寝室があり、その左右にそれぞれの部屋が準備されている作りだ。一応その部屋には、小さいながらも窓が付いているらしい。でも、それまで待てないわ!


「後半年近くもあの窓無しで生活をしろと言うの?レオの鬼!!!」


「なんとでも言え!とにかく、窓は付けない!この話は終わりだ!」


そう言って、食堂を出て行ってしまったレオ。隣でお父様とお母様が苦笑いしている。第二王子の誘拐事件以来、完全にこの家はレオに仕切られている。


再び真っ暗な部屋で学院に行く準備を整え、レオが待つ馬車へと乗り込む。私が乗り込んだとたん、後ろからギューッと抱きしめて来たレオを、軽くあしらった。


「ミシェル、そんなに怒るなよ。俺だってあんな事は本当はしたくはないんだ。でも、これもお前を守る為!仕方ない事なんだよ」


レオの言う事も分かる。でも、本当に部屋が真っ暗なのだ。


「レオは私が暗いところが苦手な事を知っているでしょう?」


「だから、ライトを沢山つけてあるだろう?」


確かにそうだが…


「とにかく、結婚するまでの辛抱だ。ミシェル、耐えてくれ!」


そう言ってギューッと抱きしめてくるレオ。ここまで言われては仕方がない。結婚するまでの辛抱と思って、諦めるしかないのか…


それでもやっぱり窓が欲しい。そんな思いから、ついため息が出る。


「ミシェル、朝からため息なんてついてどうしたの?」


私に話しかけてきたのは、親友のシュミナだ。


「私の部屋って窓が無いでしょう?全く日が差し込まないから、朝なのか夜なのかわからないのよ」


「あぁ…あの部屋ね…」


一度私の部屋をみて、ドン引きしていたシュミナ。今も苦笑いしている。


「寝る前までは他の部屋で過ごす事も出来るけれど、寝る時はどうしてもあの部屋に閉じ込められているでしょう?あの真っ暗な部屋にいると、なんだか気持ちも滅入るのよね」


本当に、なんとかならないものかしら…


「それならこういうのはどう?」


そう言って、シュミナが私の耳元である提案をしてくれた。


「シュミナ、でもそれは…」


「あら、これくらいしか方法は無いんじゃないの?」


確かにシュミナの言う通りだ。


「分かったわ、その方法を試してみる!」

私の言葉に、にっこり微笑んだシュミナ。本当にシュミナは頼りになる。早く夜にならないかしら!



そして夜

「それじゃあミシェル、今日も良い子で寝るんだぞ」


そう言って私の部屋から出て行くレオ。ガチャリと外側から鍵を掛けられる音がした。レオが自分の部屋に入る音を確認した後は、ベッドに潜り込もうとするチャチャを抱っこし、いざ出発!


ガチャ


「おいミシェル、どうしたんだよ!急に」


そう、私が向かった先はレオの部屋だ。夜鍵を掛けられた後、唯一行けるのはレオの部屋。もちろん、レオの部屋にはしっかり窓が付いている。


「やっぱり窓の無い部屋では寝られないわ!今日から私とチャチャもこの部屋で寝るからよろしくね」


そう言ってさっさとレオのベッドに潜り込んだ。そう、シュミナのアドバイスは、いっその事レオの部屋で寝たらいい!と言うものだったのだ。


「ミシェル、さすがにそれはマズイだろう!ほら、自分の部屋に戻れ!」


「嫌よ!私と寝るのが嫌なら、レオが私の部屋で寝ればいいでしょう?それじゃあ、おやすみ」


チャチャを抱きしめ、目を閉じた。


「ミシェル、おい!ミシェル」


隣でレオが騒いでいるが、無視して眠った。結局レオも諦めたのか、チャチャの隣で眠った様だ。



翌日


「う~ん、いい朝ね。朝日が眩しいわ!ねえレオ、これで私の部屋に窓を付ける気になった?」


さすがにここまでしたのだから、窓を付けてくれるはずだ。


「いいや、窓は付けない。その代わり、昨日みたいに俺の部屋で寝てもいいぞ。ただまだ結婚前だからな。一応お前のベッドを俺の部屋に運ばせよう」


あら?そっち?


こうしてミシェルは窓のある部屋で眠る事が出来る様になったものの、結局ミシェルの部屋には窓を付けられる事は無かった。


そのため、レオの反対側の部屋に勝手に荷物を移動し、昼間はそこで生活するようになったミシェル。そして夜はレオの部屋に行くというスタイルを、結婚するまで続けたのであった。




~あとがき~

以前読者様から、窓を付けてあげて!と言うコメントを頂いていた事を思い出し、書いてみました。確かに真っ暗な部屋では体に悪いですものね。


ただ頑固なレオは最後まで窓を付けてはくれませんでしたが、とりあえず光のある生活を取り戻したという事で(;^_^A


ちなみにミシェルが使っていた部屋は、その後は雨の日のチャチャの遊び部屋になったとの事です。


今後もちょこちょこ番外編を書いて行く予定です。

どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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