第72話 部屋に閉じ込められてしまいました

「う~ん…ここは?」


ゆっくり目を開けると、見たことも無い天井が目に飛び込んできた。そうだわ、私、男たちに連れ去られたのだった。自分の体を見ると、首と手足に鎖が付けられている。


「ミシェル嬢、目が覚めたかい?」


この声は…

ゆっくり声の方を向くと、そこには第二王子の姿が…


「どうしてユーグラテス様が、こんなところにいるのですか?ここはどこですか?ここから出してください!」


第二王子に向かって必死に叫んだ。


「なんでこんなところに居るのかって?そんなもの、決まっているでしょう。君を手に入れる為だよ。言ったでしょう!僕は君を諦めないって」


そう言うとクスクス笑う第二王子。


「ねえミシェル嬢、僕と君はこれからオアズス王国に行くんだよ。あそこは色々な国の人たちが自由に暮らしているからね。僕たちが紛れ込んでも、問題なさそうだし。既に向こうで暮らせるように、住まいとお金の準備はしてあるから安心して」


この人、何を言っているの?そんな事出来る訳ないじゃない。


「そんな事は出来ませんわ。今頃公爵家では大騒ぎになっているはず。きっとレオが、助けに来てくれるはずです!」


そうよ、私が困ったとき、必ずレオは助けに来てくれた。きっと今回も…


「それは無理だと思うよ!いくら優秀なガーディアン家のスパイたちを使っても、ここまでは調べられないよ。それからさ、君は僕と結婚するんだよ。もう二度と、他の男の名前は呼ぶな!いいね。もし次呼んだら、ただじゃおかないよ」


ニヤリと笑った第二王子。恐怖で一気に体が震える。


「いいね、その顔!たまらないよ!オアズス王国に着いたら、すぐに結婚しようね、ミシェル」


そう言うと、私に口付けをしようとする第二王子。


「嫌!」


第二王子を思いっきり押した。


「ダメだろう、ミシェル。夫となる男性に抵抗するなんて!随分と悪い子だね。少し躾が必要な様だね」


そう言うと、鞭を取り出した。

嘘…

怖くて身を縮こませる!


その時だった。


コンコン

「ユーグラテス様、ミシェル様はお目覚めになられましたか?」


スーツをピシッと着た男性と、ドレスを着た女性が入って来た。


「ああ、目覚めたよ。少し反抗的だからね。躾をしようと思っていたところなんだよ」


「そうでしたか!でも、今はお止めください!そのような事は、オアズス王国に行ってからでも遅くはないですよ。そうそう、ミシェル様が私たちに誘拐されたという事で、王都の出入り口に厳しい検問が設置されました。どれくらい厳しいか確認するので、オアズス王国への出発は少しお待ちいただけますか?」


「わかったよ、でもあまりゆっくりもしていられないよ」


「分かっております。それと、一応確認はしましたが、万が一ミシェル様の居場所が特定できるような器具などを持っていると大変ですので、再度確認させていただきたいのですが、よろしいですか?」


「ああ、構わないよ」


第二王子の言葉で、女性が私に近づいて来た。


「あなた達、ちょっと出て行ってくれる?この子を裸にするから」


そう言うと、男性と第二王子を追い出す女性。


「僕たちはこれから夫婦になるんだ。僕まで出て行く必要はないだろう」


そう抗議する第二王子に対し

「女性の裸は結婚してから見てくださいませ」

そう言ってあっという間に追い出す女性。助かったわ、第二王子に裸なんか絶対見られたくないものね。


「お嬢さん、ちょっと失礼するわね」


そう言うと、女性は私が着ていたネグリジェを脱がし、本当に裸にさせた。


「あなた、随分と素敵な体型をしているのね。羨ましいわ!見た感じ器具とかを持っている感じはないわね。その首から下げている物は、ネックレス?それにしてはなんだか小汚いわ!あなた、悪趣味ね…でもこれも特に問題なさそうね」


そう言って再び服を着せられた。


「鎖は付けさせてもらっているけれど、トイレは自由に行ってもらっても大丈夫よ。それじゃあ、ごゆっくり」


そう言って出て行った女性。何がごゆっくりよ!ふと周りを見渡すが、この部屋には窓が無い。さらにベッドと机、イス、トイレと浴槽があるだけで他は何もない。


どうしよう…逃げられない…

このままだと本当に第二王子と結婚させられるわ!そんなの絶対に嫌よ!レオ、シュミナ、お願い!助けて!



コンコン

「食事を持ってきたわよ」


女性の声でふと目を覚ました。怖くて縮こまっているうちに、どうやら眠ってしまった様だ。


「ありがとうございます。でも、食欲がないので」


とてもじゃないが、食べられる状況じゃない。


「あら、しっかり食べておいた方がいいわよ。移動中はあまり食べられないだろうからね。とりあえずここに置いておくから」


そう言って出て行った女性。


そう言えば、1度目の生で投獄された時の気持ちに似ているな。全てが絶望に打ちひしがれている時に、レオが助けに来てくれたのよね。そうよ、きっとまたレオが助けに来てくれるわ!とにかく諦めてはダメよ!


そう思い、準備された食事に手を付けた。正直食欲は無いが、ガリガリに痩せてしまったら、助けに来てくれたレオがきっと心配する。そう思い、必死に口に食べ物を詰めていく。


どうしようもない感情が沸き上がり、次から次へと涙が流れる。何とか食事を終え、またベッドに横になった。


そう言えば、チャチャは元気にしているかしら?男に蹴られたけれど、怪我はしていないかしら?エレナも私を助けようとして、腕を切られたわ!お母様やシュミナ、ルシアナもきっと物凄く心配しているわよね。


そう思ったら、涙が止まらない。家族や友人、レオの事を思い、涙を流す、そして疲れて眠る、そんな日々を送った。



それにしても、もう何日経ったのかしら?ここに来て、随分時間が経った気がするが、窓もなければ時計もない。そう言えば、さっきの食事が9回目だ。朝昼晩と食事をしているのなら、今は3日目の夜くらいかしら?


その間、何度も第二王子が様子を見に来たが、初日以降、私に触れたり鞭で打とうとすることは無くなった。


それでも恐怖でしかない為、第二王子が来るたびに身を縮こませている。


その時、また第二王子が訪ねて来た。


「やあ、ミシェル。ご機嫌はどうだい?」


「ええ、特に問題はありません」


そう言いつつ、怖くてまた身を縮こませる。


「そうそう、やっとオアズス王国に行く段取りが出来たんだ。出発は明日の朝だよ。やっとこれでミシェルと本当の夫婦になれるね。向こうに着いたらしっかり躾をするつもりだから、覚悟しておくといい。僕はね、君の泣き顔もたまらなく好きなんだ。楽しみだな」


にっこり笑った第二王子。嫌…絶対に嫌…

こんな男と結婚させられるくらいなら、自ら命を絶った方がましよ!そう思ったら、また目から涙が溢れる。


「その顔、たまらないね!そうそう、王都を出る時、検問でバレると大変だから、野菜と一緒に箱に入って移動する事になっているんだ。少し窮屈だけれど、僕も側にいるから大丈夫だよ!これからは、ずっと一緒だ…楽しみだね、ミシェル」


そう言うと、私の頬をぺろりと舐める第二王子。その瞬間、背筋がゾクッとした。


「ミシェルの涙は甘くて美味しいね。これからは毎日泣き顔が見られるのか!たまらないね…それじゃあミシェル、今日はゆっくりお休み」


私の頬に口付けをして出て行く第二王子。


嫌よ!絶対に嫌!レベッカ様、あなたが1度目の生の時、自ら命を絶った理由が今ならはっきりとわかる。どうやら私は、2度目の生も失敗してしまったみたいね。


もし3度目があるなら、今度こそレオと幸せになりたい。ふと周りを見渡すが、自ら命を絶てそうなものが見当たらない。


何かないかしら…

そう思って探していると、首からぶら下がっているあるものに気が付いた。


これは!

もしかしたら、助かるかもしれない!

もうこれに掛けるしかないわ!

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