俺と彼女の行く末
遠藤良二
俺と彼女の行く末
俺は旦那のいる女性を好きになってしまった。同じ会社の後輩の女性を。
俺は29歳で彼女は23歳。彼女は新入社員で沙耶(さや)という。ちなみに俺は一輝(かずき)。
話を聞いてみると、高校生の頃妊娠し、親の反対を押し切って出産したという。今は、その彼と結婚し4歳の女の子がいるみたいだ。
後輩の沙耶はとてもいい女だ。よく気が付くし、自分に厳しく人に優しい。艶っぽさも兼ね備えていると思う。見た目も可愛い。
そういう沙耶に俺は惚れた。でも、俺の気持ちはまだ伝えていない。伝えたらどうなるだろう。受け入れてくれることはないと思うから、今は黙っていよう。我慢だ。でも、いつまで我慢すればいいのだろう。我慢にも限度がある。いずれはダメ元で告る日がくると思う。
パソコンの画面の右下を観ると、今日は7月5日の月曜日で昼休み。俺は暇なので会社のパソコンでゲームをしていると沙耶がやって来た。
「一輝さん」
俺はそう呼ばれドキッとした。
「ど、どうした?」
「ちょっと、相談に乗って欲しいことがあるんですよ」
「うん、話すのはここでいいのか?」
「はい。旦那が……多分、浮気してます……」
「えっ! マジか! 何でわかったの?」
「……旦那が若い女性とスーパーで買い物をしている現場を見ちゃったんです……。しかも、楽しそうに」
俺は考えた、そして、
「同じ会社の人と、仕事で買い物に行ったんじゃなくて?」
「旦那は土木作業員なんです。男性の職場だから若い女性と買い物に行くということはないんですよ」
「……」
俺は返す言葉がなかった。そして、
「友だちとかじゃなくて?」
「そうだとしても私は嫌です……」
「だよな」
「一輝さんは今、彼女さんいますか?」
「いや、いないよ」
「好きな人は?」
「それは……」
君のことが好きなんだよ! と大声で言いたかった。でも、ここは会社。そういうわけにはいかない。でも、沙耶は不思議そうにこちらを見ている。
「LINEで送るよ」
「?」
ピロンという音が鳴った。沙耶のスマホだ。彼女は本文を見ている。驚いているようだ。そりゃ、そうだろう。
「本当、ですか?」
「ああ、前から思ってた」
「全然気付きませんでした」
俺はハハッ、と高笑いした。
LINEの本文には、
<俺が好きなのは沙耶だ>
と、いうもの。LINEのやり取りは続き、
<実は私も一輝さんのこと、いいなって思ってたんです>
<浮気してる旦那なんかほっといて俺と付き合えよ>
そう送信すると、困ったような顔つきになった。
<でも、私、これでも既婚者だし……>
<気にすんな、俺はお前を大事にするよ>
無言のやり取りが続く。
<少し考えさせて下さい>
<いい返事を期待しているよ>
そう言って彼女は僕の元を去って自分の席に着いた。そろそろ休憩時間が終わる午後1時だ。
俺は帰宅するまで沙耶のことが頭から離れず、仕事にも身が入らなかった。チラチラと彼女の方を見ては、ひとりで自分勝手な想像をしていた。沙耶とデートができたらあそこへ行こう、そこに行こうと考えたり、ラブホテルに行くことまで想像してしまい、興奮して楽しんでいた。
そして、退勤時間になり俺は沙耶を見た。仕事を終えたので彼女は同僚と楽しそうに喋っている。俺のことは気にかけてないのかな。そう思うと、気持ちが沈んだ。俺が思い込む方なのは自覚しているので、一度思い込むとなかなか負のループから抜け出せなくなるのが俺の悪い癖だ。
自宅に着いてスマホを観ても、LINEはきていない。沙耶は何をしているのだろう。悶々としてきた。旦那と別れたらいいのに。子どもはまだ小さいらしいけど、優しく接すれば懐いてくれるだろう。そう簡単に考えていた。子どものことまで考えているというのに、当の沙耶から連絡がない。なぜだ。
我慢しきれなくなり、俺の方からLINEした。
<連絡ないけど、あれから旦那とはどうなった?>
LINEした時刻は夜中の0時半頃だろだ。寝てしまったかもしれない。分からないけれど。
俺はこんな夜更けにDVDを借りに行った。観たい洋画があったから。でも、明日も仕事だけれど、何だか寝たい気持ちにならない。なぜだろう。沙耶の存在がそうさせているのか。彼女になったわけでもないのに、俺はテンションがいつもより高い。だから、眠気もこないし寝ようとも思わないのかもしれない。
そうこうしている内にLINEがきた。今の時刻は午前1時過ぎ。開いてみると、沙耶からだった。本文は、
<いま、夫は寝てます。昼間の一輝さんの話、嬉しかったです。夫はいますが、私で良ければお付き合いして下さいね>
俺は、それを読んで有頂天になった。やったぜ! と気合いが入った。でも、これは不倫ってやつだ。それをお互い承知の上での話だが。
いつ、会おう? そもそも、沙耶の旦那は土木作業員だから、きっと気性が荒いだろう。だから、バレたら殺されるかもしれない。でも、旦那だって浮気しているのだから、お互い様だ。沙耶に、
<どこで会う?>
と、送った。すると、
<いまから会えますか?>
そういう返事がきた。
<今からか、日付変わったから今日仕事だぞ。大丈夫か?>
<大丈夫です! 明日は明日でがんばります!>
<わかった。こんな時間だから俺の家に来るか?>
<はい、行きます。一輝さんの家がわからないので、どこかで待ち合わせしませんか?>
<そうだな、河原の近くのコンビニの駐車場はどう?>
<わかりました。私、車で行くんですけど停める場所ありますか?>
<あるよ。少しアパートから離れた場所になるけど、そこは俺が停めるから君はアパートの前の駐車場に停めるといいよ>
LINEのやりとりはここでやめ、目的地に行くためにスマホと財布と煙草と鍵を持って家を出た。
約15分後くらいに目的地のコンビニに着いた。沙耶はまだ来ていないようだ。駐車している車は俺だけ。
少し待って1台の赤い軽乗用車がやって来たのが見える。あの車は、見たことあるなあ、よく見てみると沙耶が運転しており、こちらを笑顔で見ながら頭を下げている。可愛い。
俺の車の横に彼女は駐車した。
「よお!」
俺は窓を開けて手を上げた。沙耶は車から降りて来て、
「お疲れ様です!」
と、挨拶してくれた。嬉しい。きっと、パジャマから水色のワンピースに着替えたのだろう。とても似合っている。
「今夜も可愛いな」
そう言うと、
「あ、ありがとうございます!」
赤面しながら言っている。沙耶は満面の笑みだ。可愛いやつめ。
「じゃあ、行くか。付いてきてくれ」
「分かりました」
彼女が自分の車に乗るのを確認してから、俺は発車した。後ろから赤い軽乗用車がゆっくりと付いて来るのが見える。
5~6分走って俺はアパートから少し離れたところに駐車した。沙耶の車がゆっくりとやって来て、停まった。俺は車から降りて彼女が停める車を誘導した。
「102号室が俺の部屋だから、ここに停めてくれ」
沙耶は窓を開けていたので、
「はい、ここですね!」
言いながら、停めた。それから、車から降りる時沙耶の生足が見えた。ドキッとした。俺は部屋の鍵を開け、入ってくれ、と彼女を促した。俺が先に入って部屋の中の電気を点けた。
「散らかっているけど、気にせず座ってくれ」
言いながら、座布団を沙耶に渡した。
「ありがとうございます!」
「いやいや、ゆっくりくつろいでくれ。こんな時間だけど。寝たかったら寝ていいからな。俺のベッドで。俺も同じベッドで寝るけど」
俺はニヤッと笑った。いやらしい笑みかもしれないと思った。
「何か買ってくればよかったですか?」
「飲み物なら冷蔵庫に入ってるよ。お酒とジュース」
「飲んでいいんですか?」
「もちろんだよ、だから言ったんだ」
「わかりました、ありがとうございます!」
「ていうか、プライベートで会う時ぐらい敬語使わないでくれ」
「う、うん。わかった」
そして、午前3時くらいまで言葉すくなめに俺達はゆっくりしていた。
「もうこんな時間。帰って寝なきゃ」
「寝ていけよ、俺と一緒に」
「え、でも……」
「旦那のことが気になるのか?」
「うん……。朝起きて私がいなかったら、どこ行ってたってなるじゃないですか」
「浮気してる旦那のところに帰りたいと思うのか?」
「……帰りたいというか、子どももいるし……」
「うーん、まあ、確かにそうだな。じゃあ、帰る前に抱かせてくれ」
沙耶は恥ずかしそうに頷いた。俺らはベッドに行き、優しく沙耶を抱いた。
俺らはとうとう一線を越えた。でも、後悔はしていない。きっと、彼女も同じ思いだろう。
俺の想像では、旦那と離婚して俺のもとに子どもと一緒に来る、というもの。そう伝えると、
「旦那とは話し合うよ。このまま、だらだらしているのはよくないから」
「うん、その方がいいな」
こうして彼女の現実との戦いは始まった。つらくなったらいつでも連絡よこせ、と言ってある。
あれから約2カ月後、沙耶は離婚した。
俺の部屋に再度来た時、
「アパート借りるから保証人になって欲しい」
と言われたが、
「一緒に住まないか? もっと、広いマンション借りてさ。俺も家のことは手伝うし」
「いいの? そうしてもらえると嬉しいし助かる。娘もいるから尚更」
「なら、よかった」
こうして僕らの人生は再出発した。
(終)
俺と彼女の行く末 遠藤良二 @endoryoji
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