金はあの世に持っていく◆
「何度、そう見舞いに来てもワシの結論は変わらん。金は全てワシの物だ!」
「親父!」
「お祖父ちゃん……」
腕を組む老人を見つめる、いや、睨む親族たち。
一昔前なら「金はあの世に持っていけないぞ」と言い放つところだが、そうもいかない。親族たちはただ肩を落とした。
そう、金はあの世に持っていけるのだ。
それが完全に明らかになったのは数ヶ月前。すでにちらほら、死んだ人の持っていた現金が目の前から消えた、預金口座が空になったなどという噂は出ていたが、ニュース映像。今まさに老衰で死にゆく人の傍らにあった現金が、その人の死と同時にスゥーと消えていくさまをカメラがしっかりと捉えたのだ。
もう疑う余地はない。あの世に金が持っていけるということは、あの世で金が使える、いや必要になるのかもしれない。
年寄り、末期の病の者はこぞって生前贈与及び、遺産相続を拒否した。
親族はあの手この手を尽くしたのだが元々当人のお金。結局動かせるのは本人のみなのだ。
そのことで事件に発展することもあったが、たとえ殺して奪おうとしても、それはまだ本人のお金という事なのか手にしたお金はその場から消えた。そのことから強盗殺人の類は少し件数が減った。
「やらん、やらんぞ。ざまぁみろ。ふぁっふぁっふぁっふぁ」
老人は高らかに笑い、そして息を引き取った。
「……おお、ここが天国か」
目を開けた老人が目にしたのは、なんとも美しい世界。浮かぶ雲から滝が流れ、風は不快さを感じさせぬほどの加減で吹き抜ける。
ほぉー、と一望する老人に呼びかける声が。しかし、辺りを見回しても姿はない。まさに天の声。老人は行儀良く座り、耳を傾けた。
「ようこそ、ここは天国です」
「おお、どうもどうも」
「入国の際には料金がかかります。お支払いになりますか?」
「勿論ですとも」
成る程。想像通り、お金がかかるらしい。提示された金額は払えるギリギリのものだった。
危なかった。払えない者の行く先は恐らく地獄だろう。老人は提示された金額を払い、高らかに笑った。
が、中に入った老人は驚いた。地図によれば細かくエリア分けされており、通るには関所のようなところでまたお金を払う必要がある。
更に、所狭しと立ち並ぶ出店。そこでは服や食べ物が売られていた。
どうやら喉の渇きもなければ、おなかも減らないようだが美味しそうに食べている人間を見ると羨ましくなる。何と言っても天国の料理だ。その味たるや想像を絶するものだろう。
それに、着ている服や頭の上にある輪っか。人によって輝きが違うと思ったら、二個ついている者もいる。更には背中に翼を生やし、天使のごとく羽ばたく者も。
それも金、金、金。とにかく金がかかる。この老人は資産家というわけじゃない。そもそも入院費で金を結構使っていた。
こんなことなら早々に死んでおけば良かった……と老人は基本の服装のまま、その場に立ち尽くした。
一方で後に死んだ老人の子孫は、強欲な老人を反面教師にし、お金は子供たちに残し、地獄を選んだ。
地獄はみんないて、それなりに楽しかった。
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