地獄は満員です
ある日、あるところで二人の男が殺し合いをしていました。
「……組は俺が貰う。アンタを殺してな!」
「ざけんな三下が!」
互いに匕首を振りかざし、体を斬り合います。
戦いは互角。しかし、いつまでも続くものではありません。決着の時が訪れます。
一方の男がもう一方の男の喉に匕首を突き立てました。
倒れる男。大きな血溜りができました。
「これで組は俺のもんだ……」
勝った男は息を切らしながらそう言いました。
倒れた男に唾を吐き、満足気な表情を浮かべると立ち去ろうと背を向けました。
その瞬間。
背後から一突き。
「な、なんで生きて……」
「へへ、さあな、しらねえよ。だが死にな」
男は床に伏し、もう一方の男は高らかに笑います。
しかし……。
「あれ?」
殺されたはずの男が立ち上がりました。
これはどうもおかしい。その場でお互いを見つめあう二人……と実はこうした出来事は他の場所でも起きていました。
人が死ななくなったのです。
それも悪人だけが。
すぐにメディアが騒ぎ立て情報は一挙に広まりました。
すると、どうなったか。死にたくない人がこぞって悪事を働きます。物を壊したり、お互いを傷つけあいます。でもそれで不死になれるのだから安いものです。
悲鳴が次第に笑い声に。まともだった人も徐々に悪事を働くようになりました。
そんな日々が続きました。何年も、何年も……。
そしてある時、空から人が降って来ました。バラバラバラバラと。
悪人たちはその人たちを取り囲みました。
空から降ってきた人たちは、その姿を見て息を呑みました。
彼ら悪人は死ぬことはなく、怪我も治ります。しかし飢えはしました。
今から数千年前に食べ物は底をつき、やがてお互いを食い合いました。その噛み傷も治ります。しかし精神は蝕まれ目は虚ろ、肌は徐々にボロボロに。ストレスで抜けたのは髪の毛だけじゃなく、爪や歯まで抜け落ちる者も。そんな人間の肉が美味しいはずもありません。
もう食べることを拒否し、痩せこける者。あるいは、食べ続け狂う者。いずれも突然降ってきた目の前のご馳走に舌なめずりしました。
「ここが地獄か……」
落ちてきたうちの一人がそう、口にしました。
人はまだまだ落ちてきます。いつかこの世界が満員になるまでそれは続くことでしょう。そしてそうなった時、どこかにまた新しい地獄が生まれるのです。
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