叩く音

 アパートの部屋で寝転んでいるとタッタッタッタッと指で床を叩くような音が聞こえた。

 どことなく楽しげなリズムなのが反って腹立たしい。こっちは先日、彼女にフラれたばかりだ。なので……


「うるさい!」


 と、壁を叩き怒鳴ってやった。さて……よし、音が止んだ。ははは、ざまぁみろ。


 ――タッタッタタン


 ……壁だ。今度は壁を叩いていやがる。クソが。仕返し、喧嘩を売っているのか……?

 もう一度壁を叩く。


 ――タッタタタタタタタタ


 すると木に登るリスのように音が壁の上へと駆け出した。そしてそれは……俺の部屋の天井へ……?


 ――タタン……タタン! タタン! タタタタン! タン! タンタンタタタタタタン! タンタンタタン!


 威圧的な音に変わっていくそれに体が竦んだ。俺は立ち上がり、威嚇と体の震えを振り払うためにダン! と床を一回踏んだ。


 ……それで音は止んだ、な。


「フゥゥゥー……」


 しんとなった室内。息を吐き、念のため耳を澄ます。


 ……大丈夫。終わった。

 だから気のせいだ。

 そうに決まっている。

 なぜか落ち着かない心臓の鼓動。

 それが不規則で、どこか覚えのある楽しげなリズムなのは……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る