トイレ
「トイレ借りるね」
「ああ、部屋出て左ね」
……あ、間違えた。けど合ってた。右じゃん。なんだあいつ。馬鹿かよ。
にしても、人の家のトイレって使うほうも使われるほうもちょっと嫌だよなぁ。何て言うか、変な感じ。まあ、家自体もそうか。行動を縛られてるような。
少年はそんなことを考えつつも、しっかりと用を足し、トイレットペーパーに手を伸ばす。……と、ふと下を見ると何やら黒いものが。
「うおっ」
声を上げるのも当然。ゴキブリが壁に張り付いていたのだ。
少年は慌ただしくトイレットペーパーをさらに巻きとる。
……こいつはここで始末しておくか。そして心の中にしまっておく。指摘すると気まずい思いをさせてしまうだろう。うーん俺はなんていい友達なんだ。と、少年は己を讃えつつ尻を拭く。
少年は拭き終わると身をかがめ、ゴキブリに向かって、そっとトイレットペーパーを持った手を伸ばした。
……妙だな。全然逃げない。まぁ、それならそれでいいか。サッと掴んで壁から便器の中に……。
……取れない。
これ……。
……釘?
なんで?
少年がトイレットペーパー越しに釘を指でなぞった瞬間、ドアをノックする音がした。そして、ドアを見上げた拍子に視界に入った、トイレ壁の上部、その夥しい数の釘を前に身が凍り付いたように固まった。
ノックの音はそれを打ち砕くかのように重く、手で叩いていると言うよりは何か鈍器のような……
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