閃きはある日突然に

 とあるアパートの一室。そこで一人の男が原稿用紙を睨んでいた。

 男は作家で執筆中……なのだがスランプなのかアイディアが思い浮かばず、ペンが思うように進まない。締め切りが近いので今日も徹夜で考えるのだが、何も閃かない。

 男は溜息をつき窓の外の空を見上げた。

 星たちが夜空を飾っている。空は広大なのに俺の頭はなんて狭いんだ……。

 そんな風に自虐的になっている男の目に流れ星が映った。


「ああ、どうか俺にアイディアを……。頭から溢れんばかりのアイディアをくれ!」


 男は流れ星に願った。無論、苦し紛れの現実逃避。しかし、どうしたのだろう、頭が冴えわたり次々と面白いことが思いつく。

 男は興奮で鼻息荒くしながらペンを手に取り、原稿用紙に走らせた。

 一枚、二枚と次々仕上がっていく。その順調さも含め、あまりの面白さに男は高らかに笑った。傍から見れば気が狂ったように映るだろうが、男は神が舞い降りたのだと確信していた。

 次々頭の中に湧き上がるアイディア。急いでペンを走らせるのだが、それを遥かに凌駕する速さで頭の中の物語は進んでいく。それだけではなく同時に二つ、三つ、さらには四つと、どんどん物語が展開されるので、とても間に合わない。

 男の顔は次第に赤くなっていき、頭が風船のように膨れ上がっていく。

 そして頭の膨張が限界に達したとき……爆発した。


 豪快な音が家を揺らし、窓ガラスは割れ、原稿用紙は部屋にバラバラになって飛び散った。

 そして、男の頭の中から溢れ出たアイディアはいくつにも分裂し、割れた窓から外に出て風に乗り、発明家や、音楽家、芸術家といった、あらゆる悩める人間の家の窓やドアの隙間からスルリとそして、彼ら耳から頭の中に入りスーッと溶けた。


 すると彼らの頭は冴えわたり、歓喜のあまりに震え、そして口を揃えてこう言った。


「やった! 天からアイディアが降りてきた!」

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