滅亡の日

 ある日、とある有名な予言者が地球はあと六日で滅亡すると予言し、息絶えた。……が、有名というのはこれまで何度も予言を的中させてきたからと言うよりはただ単に長く活動してきたため、名前を見かける機会が多かっただけの話。

 高齢ということで、死ぬ前に大きなことを言って歴史に名を残そうとでも考えたのだろうと、信者と言っても差し支えの無い一部のファン以外、誰も信じなかった。


 しかし、マスコミは恒例のごとく面白おかしく話題を広げた。

 お飾りの専門家を呼びコメントさせたり、自称占い師や超能力者を呼び番組を多いに盛り上げた。

 地球滅亡などあるはずないと思いながらも、ついつい見てしまう。ちょっとした危機感を味わいたいのだ。

 みんなと話題を共有し、何事もなく過ぎ去った後に「なんだ、何も起こらなかったじゃないか」と笑いあう。

 また一部では本当に滅亡すればいいと安酒を飲み、未来を見出だせない者や、地球が滅亡すれば意味などないはずなのに食料品を買い溜めする者がいたが、話が広まっても、やはり地球上の殆どの者が滅亡など信じてはいなかった。


 しかしある日、地球に凄まじい勢いで隕石が向かって来ていることが宇宙局の調べでわかった。

 隕石の軌道と大きさから言って衝突すれば地球が木っ端微塵になることは間違いない。

 すぐに対策本部が設置され、意見を出し合ったがそうそう解決策は出ない。それに、すでに衝突まであとニ日と時間がないから今更大規模な計画は立てようがなかった。


 苦悩の末、各国は情報を隠さず公表することにした。情報公開には自棄になり悪事に走る者が現れるからと反対する者もいたが

何も知らないまま死ぬのはあまりに不憫。最後の時を家族や大切な人達と過ごしてほしい。いやどうせ、みんな死ぬんだから、もうどうにでもなれと、様々な意見が出た末に各国で情報公開された。


 当然、混乱を招いたが意外にも犯罪に走る者は少なかった。警察がしっかりと機能していたお陰とも言える。

 警察だけでなく消防署や病院、他にもいつも通りに仕事をする者が多かった。現実を受け入れることができずに普段と同じように生活し平常心を保とうとしているのか、そもそも隕石など信じていないのか、皆がそうしているからか思惑は様々だが、地球滅亡の日は刻一刻と迫っていた。


 そして地球滅亡当日、空を見上げると巨大な隕石が迫ってきていた。

 それは初めはバスケットボール程度の大きさにしか見えず、空笑いする元気もあったが、やがて終わりを確信するほどの大きさになった。

 太陽は陰り、海鳴りのような音がずっとしている。


 無駄だと心の片隅で思いつつも車で遠くへ逃げようとする者。

 ただ泣き叫び死にたくないと嘆く者。

 近くにいる人と手を握りあう者。

 死を悟り、ただ黙って上を見上げる者。

 誰かが助けてくれるのを願う者。

 皆が奇跡を願い、神に祈った。


 だが、ミサイル発射などの各国の抵抗も虚しく終わり、映画やドラマのような奇跡は起こることなく、地球に巨大な隕石が衝突し、地球は粉々になった。



 ……しかし、どうしたことだろう。恐怖のあまり閉じた目を再び開けてみると意識がある。

 ……生きている。我々は生きている!

 人々は歓喜の声をあげ喜びを分かち合った。

 しかし、誰が最初にというわけでもなく、すぐに前とは違うことに気づいた。体が半透明で心臓の鼓動や今まであった体の不調などを感じない。何なら木や建物など周りの景色も半透明だ。


 そう、死んで幽霊になったのだ。それも人間だけじゃなく動物も植物も、海も山も地球そのものが。

 これだけ多くの命が一瞬に、それも一斉に失われたのだから天国も地獄も大騒ぎで準備できていないのだろうか。真相は解らないがいつまでこの状態が続くのだろうか。誰もがそう思った。

 悩む人類。その足元の地球は我関せずとばかりにいつもと変わらず自転している。

 そのうちそれを見習うかのように皆、変わらぬ日常を過ごし始めることとなった。

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