METALB~めたるぶ!~

@byaaaaa23512

第1話

「このヘッドマウント、軽いのがいいなあ。500g切ってるやつ。重いんだよね1万円代は首が痛くなる。」

暗いコクピット内で愚痴をぼやく、唯一光と言えるのはヘッドマウントディスプレイから漏れる光だけだ。

「無理だよこずえちゃん、カンパでも1万円が限界だよお。でもそれ1万円だったらいちばん軽いよ!511gだよ!ハムスター2匹分!」

トランシーバーからマネージャーのゆきの声が聞こえる。彼女は元々搭載者志望だったがあまりにも三半規管が優秀すぎてすぐによってしまうので今はマネージャーの立場をやっている。特に重量の比喩関しては訳の分からない例えをする。なんで生物部に行かなかったんだ?

コクピットは「部活動」であるが故にかなりのコストカットが図られている

シートは硬いプラスチック製に申し訳程度の緩衝材であるスポンジをボンドでくっつけたもの、あまりにも柔らかいものだと骨に負担がかかるので長時間は向かないということだ。

そして壁にはトランシーバーがガムテープで壁に固定されている。

このご時世でアナログ方式だ。これもコストカットの代物。トランシーバーとしては耐久性に優れているので名機といえば名機なのだがマニア向けなのでミーハーな自分としてはHMI(ヘッドマウントディスプレイ内蔵方式)対応方のものが欲しいところだった。

全身ぴっちりスーツで乗るマシンで熱が籠って熱中症になったら問題なので空調だけはしっかりしている

ようは空調以外は最悪のマシンである。

「目に集中しろ。今週はやっと運動場を借りれたんだ。そのあとトンボ30分というめんどくさいコースがあるがな。」

「は~い」

目に集中する視界が開ける。目の前には顧問の機体。もちろん自分が乗っているものとほぼ同じ機体だ。

二足歩行のマシンを動かすには全身の微妙な筋肉で動かす。ムキムキのレスラーが胸筋をピクピク動かしているのと同じ原理だ。それを全身でやる。

自分が練習できる時間はたったの30分、6人しかいない部活だが放課後まで4時間なのでそれが限界なのだ。

自分の腕を後ろに引き微妙な筋肉の動かし方で腰にある棒を取る。

顧問は元剣道部である。レギュラーではなかったがその経験はこの「機械機動部」という経験で生かされている。目線を動かし音声入力を機体に促す。

「対象Aに歩行3秒...!」

「"歩行開始、3秒"」

3秒の間に間合いをつめ、リーチの長い棒で相手を突き刺す作戦に出る。

「"2秒"」

武術を嗜んでた人間への対処法はヒットアンドアウェイしかない。

「"1秒"」

向こうはこちらがこの作戦をとるとわかっていて完全に"構え"の姿勢に入っている。

対象Aまで残り1秒...!

「ボイス操作解除」

解除された瞬間全身の筋肉をフルに使う

下から来るのは構えから理解していた

ならば機体の腰周りを使い回避する...!

顧問は10年型落ちマシンに乗っているとは思えないレベルの反応速度で私の機体を切りつける。

軸と腰周りを意識し斬撃を避けるために機体をぐるんと動かす。が。

「"エラー、姿勢制御システム強制作動"」

私が気分が悪くなって吐くより先に機械がエラーを吐いてしまった。

私が刺すよりこもんが使っている棒が機体に当たっていた。

要は避けきれなかったことによる外部物体接触と私の起動ミスだ。

あとは自動で機体が制御を戻り直立にする。

トランシーバーから顧問の声が聞こえる

「惜しかったなあ、エラーに怒られたくなかったら免許を新しくするんだな!ハハハ!」

生憎まだ17歳なので姿勢制御を外すことは法律で禁止されている。

全身に着けているものを外し、空調の電気を消したことを確認したあとコクピットの上にあるレバーを勢いよく回しハッチを開く。

外の風が気持ちいいかと思いきや今は夏、無茶苦茶暑かった。

蒸し暑い空気が流れ込む

「あ、あつい...」

こんなスーツをきて外に出るのだ。さすがに日が暮れそうとはいえ暑いに決まっていた。

「よーしお前が最後の一人だから終わりだ。原付にトンボつけとけー!」

最終的に機体を元に戻すのは顧問だ。部員がやらないのは法律で決まっている。

部員で唯一原付免許を持っているミナがトンボを連れて原付で来る。

すごい音だった。なぜか50年前のレシプロエンジンを積んでいる。

理由は単純に50年前の代物でもガソリンはなんだかんだで1リットル100円で売っているからだ。

名前はベスパと言ったそうな。外車らしい。

「今日もええ音やろ?ほれジャケット。君エロすぎ」

顧問並みのセクハラスレスレ発言とともに私は薄手のジャケットをミナから渡され着替えに行く。


こんな日常だが、油断はできなかった。

なぜなら来週から地区大会、高3最後でこれで大学から推薦を貰えなかったら地獄の受験勉強がスタートだ。


3mある機体を倉庫に入れおえ顧問にシュミレーターの使用を尋ねた

「パソコン室だろ、許可は無理だと思うぞ。お前そのスーツ着て校内歩くとか歩くセクハラだぞ、とんでもねーな。しかももう下校時刻まで30分だぞ。早く着替えてこい。水も飲んどけ。」

倉庫の冷蔵庫から水を取り出し雑に渡された。


さすがに自宅に高価なスーツは持っていなかった。最低で3万円で高校生のお小遣いでギリギリ買える値段とはいえシュミレーターを動かせるレベルのパソコンも持っていないので高校のパソコン室に頼る他なかったが、ダメだった。


部活も終わり、ゆきと帰ることにした

「もうすぐ退部かあ...」

「ねえこずえちゃんは日輪大学だよね?あそこも機会機動部あるけどこずえちゃんならあそこ楽勝だよぉ」

「うちは金がないの、要は特待生とらなきゃ。」

なんだか卒業が近づくにつれて暗い話題が増えていく。

「私もミナちゃんみたいにあんなおしゃれな原付欲しいなあ、レトロテイストな感じがいいよねえ」

こいつは終始ぽわぽわしていた。

そんなぽわぽわした会話を続けてたら家の前だった

「こずえちゃんじゃあねぇ~」


マンションのエレベーターにのり家に帰る

家には親が2人してなんだか神妙な顔でたっていた

「おいこずえ...よかったな...!」

「どどどどどうしたの?」

手にはなんだか分厚い封筒があった

「日輪大学から手紙だぞ!来週の土日、行ってこい!」


手紙を確認したら

"日輪大学スポーツ試験推薦に選ばれました。7/12、13日に基礎学力試験と機会機動部試験を受けていただきます。"

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