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 その日から僕は、何度か放課後や休日に彼女から呼び出された。高架下のトンネル、錆びた遊具がある公園、ほとんど参拝者の来ない神社、いつから放置されているのかわからない廃車同然の自動車の傍。そういった物寂しい場所で僕の写真を何枚も撮影した。


 教室ではそれぞれ属するグループが違うこともあり、話をすることはなかった。目が合うと、軽く挨拶はしていたので、友達からは「桂木さんと何があったんだ」と問い詰められた。黙秘権を行使した。クラスメイトに内緒で撮影をするのは、二人きりの秘密の関係みたいで優越感があった。


 撮影の緊張はいつの間にか、しなくなっていた。写真を取られすぎてそういった感覚が麻痺したのかもしれない。楽しそうに撮影する彼女に見とれてしまっていて、何度か怒られた。


 はじめは嫌々付き合っていた。彼女はそんな僕を連れ回し、熱心に撮影する。僕はなにかに真剣に取り組んだ覚えがなかったから、少し羨ましく思った。彼女の熱が移ったのかもしれない。僕は彼女に協力したいと思いだしていた。


 自分の写真が他人の手の中に、もしかしたら何十年と残ってゆくのだと考えると照れくさくて悶えてしまいそうだった。でも、それが桂木さんの手の中だと考えたら悪い気もしなかった。


 僕の写真の収められたファイルを眺め、楽しそうに話す桂木さんを見ていると僕も嬉しくなった。この表情はきっとクラスメイトの誰も知らない、僕だけが知っている桂木さんなんだと思うと、誇らしさすらあった。


 ――もしかしたら、僕は桂木さんが好きになったのかもしれない。桂木さんも僕をそういった目で見ているかもしれない。


 そう考えると、桂木さんとの撮影は更に楽しくなっていった。

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