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ひとしきり笑った彼女は息を整えるために、一度大きく深呼吸をした。
「じゃ、ポーズをとってみて」
「何が?」
彼女の言葉の意味がわからなくて、僕は聞き返した。
「写真のモデル」
「ごめんって断ったけど?」
彼女は首を傾げた。
「心の準備が出来てなかったんじゃないの? だから、放課後まで待ったし」
見当違いなことを彼女は言う。どうやら、もっと直接伝えないと彼女には伝わらないらしい。
「いいから、そこに座ってみてよ」
断る勇気もない僕は、彼女の指示に従いアスファルトの床に腰を下ろす。その冷たさに小さく悲鳴をあげる。カビなのか苔なのかの匂いが鼻につき、あまり気分は良くない。
「じゃあ撮るよ」
言って彼女はトイカメラを構えた。撮影慣れしているのか、その姿はなかなか様になっている。ジロジロと見てしまっていたらしく「カメラ意識しないで」と彼女に怒られた。撮られ慣れていないんだ。無茶を言うな。
「もしかして、緊張してる?」
僕が頷くと、彼女は「くくっ……」と再び笑った。
「クラスメイトなんだからさ、緊張することないじゃん。ほら身体の力を抜いてリラックスしてー」
彼女はのんびりとした口調で言い、身体を海中のクラゲのようにゆらゆらとくねらせる。クラスで見せる僕にとっての怖い彼女とは違う仕草に、僕は緊張が解れるどころか、違和感から余計に体を強張らせた。こんな仕草もするのか。
「ありゃ、もっと固くなった?」
言って彼女は僕の顔を覗き込んだ。彼女からは柑橘系の女子らしい良い匂いがした。香水か何かだろうか。開かれた制服の胸元から、下着が少し見えてしまい、恥ずかしくなって僕は顔を背けた。心臓の鼓動が早い。彼女に聞かれていないだろうか。
「もう今日は無理っぽいか」
彼女はスマートフォンの画面で時間を確認する。
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