第66話 大聖堂の塔(ディビット視点)

大聖堂の塔にはシャーロット・バクスターが幽閉されている。


シャーロット・バクスターの警備など本意ではないが、仕事なら仕方ない。

俺は割りきれる男だ。


しかし…!


「何故、部屋の扉の前に警備が付くのですか?塔の扉の前じゃないのですか?」


警備の為に、扉の前に立っているが、何故塔の中の一室の前に警備が付くんだ?

脱獄なんてしたことないだろう?

報告書にそんな記録はなかった。


何故だ?と疑問に思っていると、もう一人の警備についている聖堂騎士がおかしなことを言ってきた。


「おい、扉の真ん前に立つな。少し横に避けてろ」

「は?」


すると、何の前触れもなく、扉の蝶番が音を立て、俺の背中にあった扉が後ろから襲うように倒れてきた。


ゴンッ━━━━!?


「だから、真ん前に立つなと言ったのに…」

「…遅いですよ!もっと早く…っ!ではなくて、何ですか!?これは!?」

「…お前丈夫だな…」


扉が古いのか!?

いや!全くの新品に見える!


「丈夫で良かったよ…前の奴は扉が倒れて来て気絶したり、蝶番が吹っ飛んできて気絶したりしてな。…前はガラスも使われた扉もあったが、後始末が面倒でガラスは使用されなくなったから、後始末が楽になったぞ」


「はぁー!?何でこんなことに!?」


粗末な石造りの部屋の中では、シャーロット・バクスターが必死で浄化作業をしている。

シャーロット・バクスターの横には大きな木箱にアミュレットが山盛りになっている。

その反対の横には、済んだであろうアミュレットがちんまりとある。


「えい!えい!頑張りますわよ!私!…でも疲れましたわ!」


シャーロット・バクスターは浄化作業をしながら、大きな声で独り言を叫んでいる。


「…っ全く進んでいないじゃないか!?もっと真剣にしろぉーーー!?」


ここに幽閉されてから一体何日経っていると思うんだ!


「はっ!?なんですの?乙女の部屋に侵入するなんて…!不埒者ですわー!?誰かー!」

「誰が不埒者だ!俺だ!ディビットだ!」


ハリーといい、シャーロット・バクスターといい、何で俺を覚えてないんだ!


「まぁ、ディビットですの?あなた何をしてましたの?私は大変な目にあったのですよ」

「自業自得だー!お前が可憐なミュスカさんの誘拐を企んだからだろぉーーーーー!」


「どうも、シャーロット・バクスターは聖女としての能力が低くて、浄化作業があまり進まんのだ…あのアミュレットがあると、扉が壊れるし…扉を直さなかったら、塔が少しずつ壊れてな…被害を扉に集中させる為に、すぐに扉の修理にあたることになっているんだ。…ということで、扉の手配をするぞ!」


はぁ、はぁと息が苦しくなりそうな俺に、もう一人の警備の聖堂騎士がそう言った。


元凶はこのアミュレットか!


「もっと、浄化作業のスピードを上げろ!塔が壊れるぞ!!」

「…あなたの顔を見てると私、疲れましたわ。そろそろご褒美が欲しいですわ」

「失礼なことを言うな!」


なんたる無礼だ!

そして、何故可愛いくご褒美をねだる!?


「ご褒美とは?」

「私のレスター様にお会いしたいですわ」

「…ご褒美は大聖女様にご相談を…」

「わかりましたわ!私、頑張って浄化しますわ!」


ウルルンと目を潤ませて、ご褒美をねだるシャーロット・バクスターにもう一人の聖堂騎士は怒る素振りもない。


「…おい、腹が立たないのか?」

「いやー、あんなに可愛いらしく言われたら、怒る気が失せるというか…小動物に怒りたくないだろ?そんな感じだ。シャーロット・バクスターは逃げる気もないしな。ということで、扉の修理を手配してくるぞ!」


聖堂騎士は走って階段を降りて行き、粗末な部屋にいるシャーロット・バクスターを見ると、また浄化作業に戻っている。


「えい!えい!」


その掛け声はなんだろう?

ギャグだろうか?


「さあ!今日のノルマは頑張って2つですわよー!私、頑張るのよ!」


2つだとぉー!?


「…っ!せめて10個ぐらいせんかー!?」


この塔にいると、出世コースじゃない気がしてきた。

むしろ、戦場じゃないのに危険と隣合わせな気がしてくる!!


「やりますわよー!」

「もっと真面目にしろー!!」


そして、シャーロット・バクスターを斬りたい勢いで怒鳴り、倒れた扉を踏んでしまった。

その扉に弾かれた蝶番が俺の額を狙ったように飛んでくる。


「痛い!」


その場に座り込むと、シャーロット・バクスターがあきれたように言ってくる。


「あなた、うるさいですわよ。休憩なら別の場所でしてくださいな。ここは乙女の部屋ですわよ」

「やかましい!」


そして、シャーロット・バクスターは俺の心配もせずに、またあの、えい!という掛け声が始まる。


嫌だ!

こんな大聖堂勤務なんて嫌だ!


そんな思いは誰にも届かなかった。






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