あいわなび

芋鳴 柏

ちゃんぴおん

親には感謝している。

私はほんのひと時の間だが「エリート」と呼ばれる肩書を持つはずのレールに居たことがある。そこで必死に食らいついてさえいれば、私は今こんな事を書かずに済んだという程のレールに居た。

才人の集い、言うなれば現代日本社会の殿上人の類いである。


未練がましいことこの上ないかもしれないが、よもや自分がこの程度の人生を送るなどとは到底に思ってもみなかった。ここまでで私は、確かに本物の才人に成れるはずだったのだ。

チャンスを失ったのは、下らない反抗心のためだ。

自分はこの中で芽も出ないレベルだと薄々感づいていた私は、自分を取り巻く環境のレベルを下げて、その中で頂点を極めようと意気込んでいた。

そうして鶏口牛後の字のごとくに成り下がった私に待っていたのは、完全な価値観の違いだった。点数が全ての世界で生きてきた私は、そういった付き合いとかコミュニケーションだとかそういった類の中で生きなければならなくなった。

言わずもがなで自分にはそういった類の一切が欠けていたので惨めな生活を送ってきた。純粋によく分からなかったのだ。体育会系のノリというか、そういうのは。


私は今、後日談を歩もうとしている。

自分は、自分をよく分かっていた。学力は碌に続くことはなく自分は六年前よりも知性が落ちぶれていた。天才などには追い付けないのは、何処であっても同じだ。天才は悲しいことにどこにでもいて、私はきっと頂点などは取れないだろう。


もはや世の中を斜に見ようとは思わない。

人間は出来る事なら上を目指して精進をするべきであって、そこに諦観が滲み出てさえしまえばその時点で人はもう既に死んでいる。心が腐ると、能力も腐る。なんと分かりきった事だったのか、そういうことに気付けなかった私はやはり劣っていたのかもしれない。


悔しい事だが、俺は頂点にいたかった。

自分は恐れ知らずで、万能だと信じて疑わなかった。強くて賢くて、誰よりも輝いているものだと思っていた。今はその理想像の殆どが叶わないものだと知っていても、私はとどのつまりただの凡人の類いであった。

凡人であるがゆえに、誰かよりも特別でありたかったのだ。


世の中の多くの人間がこのジレンマに立ち向かっている。凡人の壁を越えて、自分が唯一無二であると示す為にあらゆる勉学や仕事に励んでいる。彼らはきっと特別にはなれはしないだろう。結局のところ、特別になりたいと願うその心がひどく凡人じみていて、才の乏しい事を如実に示している。


私は自らの凡人であることを嫌って、自ら自分の人生の首を括ってきた。いつの間にかどうしようもなくなっていたのを六年前に戻って後悔しようとも思えない。だが、そういってこのまま惰性に生きる事は凡人そのものであって、私自身が頷けない。

凡人であることを回避し続けるために私に残された道は、もはや優劣などを超えて世から離れて己の芸術性に頼むところしかなくなってしまった。

そうすれば、特別になれる。

表では幾らうだうだ言っていても人間などの底は凡人の底にあるものは誰かよりも優れている事を示して誰かに認められて欲しい、そんな特別になりたいと願うその一心だけだ。

私の芸術の芽は、未だ出ていない。

けれども世の中には私が思う以上に、そういった所に頼む人間もまた多い。

特別になりたがる凡人の思考はこういった駄文を生み出して、その留まるところを知らない。例え自らにはもう、真っ当に生きるべき術も死にながらにして生きるしかないと何処かでは分かっていても、そういった物を書くほかない。


文章を書くことの普遍性は、誰しも持っている。

凡人らしい選択だ。文章を書いて、世に認められようなどとは。


後日談として私は、自称小説家志望になろうと思う。

先人がそういった胡散臭い特別にどれだけの人生を投げ打ってきて、そのどれだけが社会から見放された溝のような末路を遂げているかも知っている。こうまでしても、特別になりたいと思うその心は間違っているとも思えない。


社会への反抗心からかもしれない。

そういう道に懐疑的になりたがる自分のような捻くれ者には、丁度いい末路かもしれない。


子どもの時分に、私はよく褒めてもらった。

点を取ったことに親から褒められ、体格がいいのを良い事に乱暴をして同級からも認めてもらっていた。友人も多くいた。小さな世界で私は一番だった。

それだけで良かったじゃないか。

例え何を知らんでも、まったくそれで良かったじゃないか。


私は小さな世界で文豪になる。

人を知った気でほくそ笑んで、駄文を積み重ねて悦に浸る。

私は、頂点に回帰する。

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あいわなび 芋鳴 柏 @ru-imo-sii-cha-96

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