第2話

「なぁっ!? き、貴様ぁ! なんて非道なことを! それでも人間か!?」


 オウジンは今にもコウシャンに掴み掛からんばかりの勢いだ。


「だから物の喩えですってば。実際にやってないからその女はそこでのほほんとしてるんじゃないですか」


 コウシャンはあくまでも理性的に言葉を続ける。


「大体ですねぇ、見事なくらいにハニートラップに引っ掛かったあなた方に、上から目線で何か偉そうに言われたくないですよ」


「なぁっ!? ハニートラップだと!?」


 オウジンが目を剥く。


「あら? 気付いて無かったんですか? その女は殿下の取り巻き達全員と懇ろになってますよ?」


「ぬわぁんだとぉ!」


 オウジンが信じられないとばかりに周りを見渡す。取り巻きどもは黙って目を伏せた。


「ひ、酷い! わ、私、そんなことしてません!」


 ここで初めてダンシャルが口を開く。


「惚けても無駄ですよ。全て調べは付いてますから」


「う、ウソです! オウジン様! 信じて下さい!」


 ダンシャルは目をウルウルさせてオウジンにすがり付くが、オウジンはそっと身を引いて躱した。取り巻きどもの態度で色々と察したらしい。


「お、オウジン様...」


 オウジンに身を躱されたダンシャルが力無くその場に倒れ込む。


「ハァッ...」


 その光景を見ながらコウシャンは深いため息を吐いた。


「ここ最近、男爵家や子爵家といった所謂低位貴族の令嬢達が挙って高位貴族の子息、それも婚約者のいる方々に擦り寄っては誘惑し、そのせいで婚約破棄あるいは解消が後を絶たないって現象が起こっているのを殿下はご存知でしたか?」


「い、いや、知らなかった...そうなのか!?」


「えぇ、どうやら巷でベストセラーになった婚約破棄物の小説の影響らしいんですがね。だから私は、王太子妃を経て王妃になった暁には、この学園を改革しようと思ってました」


「改革!? どんな!?」


 オウジンが首を捻る。


「低位貴族と高位貴族で校舎を分けて完全に隔離するんです。どうも低位貴族の令嬢達は、今回の小説の件を抜きにしても学園に婚活しに来ているような風潮がありますからね。社交界ならともかく、ここは神聖なる学舎です。学問を修め、将来の人間関係を築くための重要な場所で貴重な時間なんです。決してハニートラップも辞さない覚悟で、男を誑し込むための場所なんかでは無いんですよ。殿下、お分かり頂けましたか?」


 オウジンやその取り巻きどもは何も言えなかった。正論過ぎて反論の余地も無かったのだった。

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