第7話 決心
「仲間のフリをして背後から斬るのは、気持ちの良いものではないな…」
剣を抜き放ち、一閃を繰り出した姿勢のまま呟いた。
たったいま、骸になったばかりの男に向かって。
「悪いな、お前はおそらく職務に忠実で思いやりのある、清き者だったな。
苦しまぬよう首だけ刎ねた…来世へ達者でな。」
男の骸に向かって、リゼットは言う。
殺るか殺られるかのこの状況、卑怯な手段ではあったが仕方のないことだった。
もし、あの時、曲がり角からまともに兵の前に飛び出していたら…いまごろ骸になっていたのは、彼女の方かもしれない。
彼女は、行動こそ残酷ではあるものの、心は冷酷にも残忍にもなれないのだった。
彼女の中にも、道理はある。
彼女自身も分かっていた。
今回の件で悪事に加担していたのは、国王と兵士の中でも上の一部の人間だけであると。
兵士の中には、
国王が非道なことをしているとなどつゆ知らず、忠義に従い真っ当に生きる者。
自らの憧れや信念を貫く者。
国を守るために職務を全うする者など、悪い者たちだけではなく、清き者たちも居たはずだった。
しかし、どうすることもできなかった。
この状況で説得など無意味であろう。
見逃すこともできたが、兵士達は皆、国王への忠義の元に国を守っている。
例え見逃したところで、後から追われて、私の背後を狙われるリスクが高まるだけだ。
それほど兵士達の忠義は、絶対的なものだった。
国王の人望を集める力は、確かなものだった。
だからこそ、横暴になったのかもしれない…
仮にもし、声を大にして国王の悪事を騒ぎ立てようものなら、国王はそんなことなど知らぬ顔で、その者を反逆罪へと仕立て上げ、公に効率良く邪魔者を消すだけだ。
現に、ここ1ヶ月で5人の公開処刑が行われていた。
全て失踪者に関わりのある家族や友人だった。
それは真相に気付き、声を上げた者たちだった。
しかし、民衆が聞く耳を持つことはなかった。
国王の用意周到な根回し(賄賂)と、表の顔の分厚さには、誰も敵わなかったのだ。
真実の声を上げた所で、誰一人としてその話を信じる者も、耳を貸そうとする者もいない。
そう、この国は腐っていた。
その全貌は、国王が国の全てを完全に支配し、表では民衆受けの良い顔をして信頼を、裏では自分に疑いの目が行かぬように賄賂を回していた。
そして、誰にも不正のことなど気付かれることもないまま、民衆の心をも手中へ収めていったのだった。
リゼットは決心したかのように、骸の前で呟いた。
「許せ…国を正す大義のためだ。
お前たちの犠牲は無駄にしない。
汚職者どもの血で、全て贖ってやる。
腐った国は、私が全て喰らい尽くしてやる。」
そして、リゼットは元の黒いドレス姿へと戻り、再び地下牢へ向けて歩みを進めた。
その目は澄んでおり、迷いの色は微塵もなかった。
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