亡くした記憶と幼馴染みとかくれんぼ
白鷺雨月
第1話 帰省
八月の下旬、一週間ほど休みがとれたので僕は、実家のある大阪に帰省することにした。
正月には帰れなかったので、実家に帰るのはほぼ一年ぶりであった。
大阪を離れ、名古屋の大学に通うことになり、そのままこの地の企業に就職して、はや三年がたとうとしていた。
キャリーバックに着替えとお土産を詰め込み、近鉄名古屋駅にむかった。
新幹線の方が断然速く着くのだが、二時間ちょっとという電車の旅とゆっくりと流れる地方の風景が僕好みなので、僕はこちらを選択した。
駅構内の売店で弁当をかいこみ、近鉄アーバンライナーにのりこむ。
お盆もすでに終わっていたので、電車の車内は比較的すいていた。
夏休み最後の旅行にいくであろう家族つれ、ビジネスマンっぽい一人客、大阪旅行を楽しみにしているカップル、そして僕であった。
車内にアナウンスが流れ、電車は近鉄難波にむけて発車した。
途中、僕は購入した弁当で腹ごしらえし、車窓から流れる景色をぼんやりと眺めていた。
スマートホンにイヤホンを指し、音楽をランダムで再生させた。
僕はこのまま名古屋でずっとくらすのだろうか、それともいつか大阪にかえるのだろうか。
なんてことを考えていた。
それは答えのでない疑問であった。
名古屋と大阪はそれほど遠いとはいえない。近いともいえないが。
近鉄なんかを使えば二時間ほどでついてしまう。
そのいつでも帰れるという感覚が逆に帰るのをおっくうにさせているのかもしれない。
それに大学のころからかぞえて七年ほど名古屋に住むようになって、この土地にも地元のような愛着も芽生えつつあった。
まあ、先のことは先でいいか。
答えのでない問いを頭のなかでめぐらせていたら、うとうとしだし、眠ってしまった。
車内で心地よく眠っていると到着のアナウンスがながれた。
そそくさと降車の準備をし、僕は電車のドアにむかった。
電車の外はやはり蒸し暑かった。
八月の終わりごろは残暑のはずだが、まだまだ夏本番の勢いであった。
額にながれる汗をタオルでぬぐいながら、南海難波駅へと向かう。
どことなくこの暑い空気は大阪も名古屋もかわらないなと思った。
南海難波のあの独特の長いエスカレーターをあがり、改札口をぬける。
僕の実家は南海高野線にある河内長野というところであった。
大阪というところは難波や梅田、天王寺は都会だが、それ以外は田舎といってもさしつかえないと思う。
僕が生まれ育った河内長野もその大阪南部の荒々しさを残しており、個人的にはあまり好きでない土地柄であった。
それがもしかすると僕があまり実家に帰らない原因の一つかもしれない。
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