1-2
わかる。
これらの情報がわかる。
しかし価値のない情報ばかりだ。
力があるのはあれだけか。
反応は微少だ。
偽装の可能性がある。
力を試しておきたい。
これらを踏み越えて行くのは問題になるはずだ。
隙間を通っていく。
「えっ」
「なに、ちょっと」
「葦野……? 何してんだ?」
価値のない音声情報が増えてきた。
それは気付いたようだ。
立ち上がり近づいてくる。
弱いままだ。
力を隠す型ではないのか。
これらは攻撃によって殺すと活動を制限してきたり攻撃対象にする。
今がこれの上限だと仮定して死なない程度に加減が必要だろう。
これの腹部に腕を突き刺す。
攻撃行動への反応は見られない。
肉体の抵抗はなく容易に貫通する。
脆い。
これはなんだ。判断できない。
生命活動は維持しているようだ。
これに掴まれた。
腹部というのは突き刺すと掴みかかられるものなのか。
痛みというものがあれば、これらは苦しみや恐れといった表情をするはずだ。
これは穏やかといった表情をしている。
情報の間違いか。
穏やかといった表情のこれらに対しては微笑みでいれば良いはずだ。実行する。
困惑といった表情だ。
違うようだ。表情に関する情報が不足している。一旦中断する。
力を流し込まれているな。知らない形だ。こういうものもあるのか。
確認が必要だ。
これとは一旦距離を取る必要がある。蹴り飛ばしておく。
加減はこれぐらいでいいようだ。
砕け散らずに椅子という物に当たりながら転がっていく。
情報が大幅に増えた。
悲鳴や逃走によるものだ。無視する。
異常がある。
意識が鈍化していく。いや活性だ。
あれの力か。新しい。欲しいな。なるほど、あれはつかさだ。なんであんな所で倒れて? なんでこんな騒がしいんだ? 僕の手に、これは血? わからない。つかさが血まみれだ。うるさいな。なんで一人一人はっきり聞こえるんだ。僕がやった? つかさを? わからない。するわけないだろう。でも手についてるのはつかさの血だ。なんでわかるんだ?
静かになってきた。みんな出ていったのか。僕から逃げたみたいだ。みんながそう言ってる。
「孝也……」
「つかさ!」
つかさ。よかった……。わかってた生きてるって。
辛そうだ。いいのか? 僕が近づいて。外で五十嵐が僕がつかさを殺そうとしてるって言ってる。誰だ五十嵐って。
つかさが起き上がろうとしている。
僕は動けない。どうすればいいかわからない。
ふらふらとしている。息も荒い。
一歩一歩近づいてくる。血は、もう出てないようだ。
やっぱり僕だ。僕がつかさを傷つけた。
なんでかはわからない。記憶がない。でも間違いないだろう。
そうとしか思えない。
じゃあダメだ。また記憶が飛んで同じような事をしてしまうのかもしれない。
後ずさる。
「孝也。大丈夫……大丈夫だよ」
動けなくなる。つかさは、つかさはどこまでも追ってきそうだ。あんなに優しい顔で。あんなに辛そうなのに。僕が逃げたらずっと辛いままだ。
怖い。近づけない。遠ざかれない。固まったままの僕をよそに、つかさはもう目の前まで来ている。
そして、僕を抱きしめた。
つかさの体温を感じる。その温かさが、恐れを解きほぐしていくようだった。
「ほら。大丈夫でしょ……?」
「ああ……そうだな……」
混み上がった安堵に思わず抱きしめると、つかさの体がきしみ悲鳴が上がる。ダメだ。僕の体はもう、変わりきってしまっている。
「ごめん。僕はやっぱり……」
「ううん。孝也はもう大丈夫。そんな顔できるんだから。それに、少し力が強くなっただけじゃない」
「つかさ……」
「力なんてずっと前から孝也の方が強いでしょ? だから、大丈夫。何も変わらないよ」
「でも……いや、そうだな。ありがとう、つかさ」
「いいよ、これぐらい。だから、今だけは私を離さないで」
できるだけゆっくりとつかさを抱きしめる。
つかさの体をぎゅっと自分に押し付ける。
きしみも悲鳴も上がらない。
あんな事をしてしまったのに。つかさは優しいままだ。
それなのに僕は涙さえ流れない。苦しみも悲しみも怒りもめちゃくちゃに湧き上がっているのに。心はどんどん穏やかになっていく。そんな感情はどんどん消えていく。
怖い。自分で自分が。
つかさは大丈夫って言ってくれたけど、やっぱり僕は、おかしいままだ。
*
もう大丈夫か? 大丈夫だな?
あぶねえあぶねえ。ギリギリすぎたわ。
咄嗟に回復と痛みの緩和に全力出してなかったら意識持ってかれてたな。
殺すつもりじゃなさそうだったのが救いだ。
わざわざ俺を狙った理由がはっきりしないのは気がかりだが。
知り合いだからか? それなら同じ中学の奴が同じクラスにいたはずだ。そっちと迷ったっていい。いや、標的を確定してから動いたならまっすぐ来てもおかしくはないか。
それ以外だと、チートを感知されたのか?
クソ、俺のチートがどう分類されるかわからないからどうにも判断できねえ。
『プリテーション』感知に引っかかったならまだいいが……。
ああダメだ情報がなさすぎて考えても埒が明かない。今更どうしようもない部分だ、後回しにしよう。
今はそんな事よりできるだけ孝也を癒してやらないとな。
ひどい顔だったからな……。幼馴染の腹ぶっ刺して蹴り飛ばしたんだ。喧嘩なんかしたことない奴だし、なんだかんだ優しい奴だ。自我を取り戻してからの衝撃も大きかっただろう。
もうじき『インター』が来るはずだ。それまではこのままでいてやろう。
状況としては典型的な覚醒時の騒動。処理もその方向でされるはず。少々腹をぶち抜かれたが回復したし、死傷者なしという結果は上々だ。法的な配慮があっても、周りからの扱いや、何より本人の心境も全然違うだろうからな。
これからの事は考えなくちゃならない。
ゲームと現実の孝也の違いの理由がわかった。
確定バッドエンドの理由もだ。
代わりに当てが外れた。
どでかい収穫もあった。
そのせいで俺も何とかして『インター』に入らなくちゃならなくなったが。
クソ製作者め……。
『暴走』じゃねえじゃねえか!
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