第14章:「穴があったら入りたい」愚か者を俺は諭さなければならない。「穴はいれるものだ」と(第1話)

「未だに解っていない事があるんだが…」俺が言った。ナンジェーミンは女王と一緒に残したし、ビンラディンは回復係として穴の監視人に任せたから、俺以外にテーブルを囲んで座っているのは、大橋さんとミクルとフロル、あとゴメちゃんだ。「エクスカリバーを穴に挿すのが、処女の女勇者でなければいけない合理的な理由だけが見つからない。それ以外のピースは揃ったというのにな」

 ミクルが、首を傾いで微笑んだ。

「処女が必要だったのではなく、必要な素質を備えている傾向が処女の方が高かった、という事かもしれないね」

 ミクルの言葉に、フロルはキョトンとした。

「姉さん、それってどういう事?」

「統計学のお作法だ」俺が答えた。「世間知らず、初心、まじめ、素直、疑う事を知らない。そんな傾向を女勇者に求めて行くとしたら、それぞれの素質について細かく指定するよりも、その傾向が強い処女を『処女が必要だ』と言って集めた方が早い、って事だ。アトレーユはそんな事、一言も言っていなかったがな」ミクルは、笑顔を崩さずに首肯した。あざとさのない屈託さが、俺を心配にさせる。「俺が言いたかったのは、そういう事じゃない。この後、実際にエクスカリバーを穴に挿す、という重要なお役目が待っている。俺には、ミクルをあの穴の中に連れて行かない、という選択肢もある。少なくとも、エクスカリバーと処女は関係がないと見ているからな」

「それはできないわ」ミクルは間髪いれずに否定した。「何の為に母さんが女勇者を見越してわたしを育ててくれたのか、フロルが今日までついてきてくれたのか、解らなくなってしまうもの」

 確かに。フロルが男の娘として生きなければならなかった理由を全否定する可能性はあるな。

「これは純粋な心配心から言うが…」俺が言った。「もしエクスカリバーを挿す事で命を奪われる様な事があった場合、ミクルが処女のまま死んでしまうのはあまりにも不憫だ」

「それはカナヤマの勝手な価値観でしょ」フロルが口を挟んだ。「姉さんを馬鹿にしないでよ」

 フロルよ、そういうつもりじゃない。

 ミクルは微笑みを崩さずに、小さくかぶりを振った。

「そうか…」

 俺は呟く様に言った。これは図らずも、女勇者AVの撮影をどうするか、という悩みと直結する。

 大橋さんが咳払いをした。

「話が一段落したなら、これからの話をしたいんだが」大橋さんが言った。「これからするべき事と、役割分担についてどうするか」

「ああ、それが本題だ」俺が言った。「意識合わせをしたい。今、俺たちが解っているのは次の通りだ。まず、エクスカリバーはUSBメモリという小さな箱で、あの『穴』の中にある聖域…まあ俺のスタジオだが…に設置されている。エクスカリバーを抜くと、聖域から出られなくなるのは事前情報の通りだ。次に、エクスカリバーを挿す穴についてだが、これはこの『箱』の、この穴だ」俺はテーブルの上に置かれた箱のUSB挿し口を指さした。「これから行うのは、この箱を持って穴を通り抜け聖域に入り、聖域の中でエクスカリバーをこの箱に挿しかえる」

「そうすると、何が起こるの?」

 フロルが不安そうな顔で訊いてきた。

「お前の好奇心は称賛に値するが、残念ながらそれは俺にも解らん。考え得るのは、魔王との闘いが始まる、穴が閉じて世界が平和になる、残念ながら何も起こらない、くらいか」

 俺が元の世界に戻れる、も想定しているがな。

「では、魔王との戦闘を考えた人員配置にした方がいいだろうか?」大橋さんが言った。「この国の兵隊も連れていくのであれば、女王に掛け合うという手もある」

「否、それは止めておきたい」俺が言った。「これは俺の中の最有力な仮説の1つだが、エクスカリバーを挿したが最後、この世界に戻ってこられない可能性がある。だから、聖域に行くのは最少人数とし、何かあった場合にすぐに対処できるよう、伝令係を1人付けた方が合理的だ」

「なるほど」大橋さんが言った。「であれば、私が聖域に入り、エクスカリバーを挿す役割を担おう」

 俺は笑った。

「有難い申し出だが、人の話は注意深く聞くべきだ。エクスカリバーを挿すのはミクルの役割だ」俺と大橋さんは、同じタイミングでミクルの方を見た。ミクルは真剣な表情で、深く頷いた。「だから、こうしたい。聖域には、俺とミクルの2人で入る。フロルとゴメちゃんは聖域の扉の外で待機。何かあったらすぐに穴から出て、大橋さんを中心に必要な対策を講じる」

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