AV監督だったけれど異世界ファンタジーに転生しちゃったから女勇者をそそのかしてAV撮ってレベル1のままラスボスと戦うハメになった件
第6章:あのホーキングが解けない課題に挑戦しなければならない理由を俺は知りたい(第2話)
第6章:あのホーキングが解けない課題に挑戦しなければならない理由を俺は知りたい(第2話)
「予約はしていない。車を借りたい」豊橋はレンタカー屋に入ると、受付の、どう考えてもヤンキー上がりのお姉ちゃんに向かって言った。「クラス、車種、禁煙喫煙その他一切をあんたに任せる」
当然、店員は困惑する。だからお前はコミュ障の烙印を押されるんだ。俺にな。
「おい、豊橋」俺は豊橋の肩を後ろから掴んで、言った。「予約もせずに、車種も無計画というのは解せん」
豊橋は、その三白眼で俺の目をしばらく無表情で見て来た。
「…その通りだ。解せんから意味がある。詳細は後で話す」
店員は、車種一覧のラミネートを見せると、Mクラスのセダンを勧めてきた。
「そうか。では、その隣にある、ファミリーカーを借りるとしよう」
今日の豊橋はキレッキレだ。普段から何を考えているか解らないヤツだと思っていたが、やはり何を考えているか解らん。
店員は一瞬当惑して見せたが、すぐに手配を開始した。
俺たちは、8人乗りのファミリーカーに2人で乗り込んだ。意味が解らないし、普段乗らない車種だったので、俺は敢えて横の自動スライドドアを3往復程度開け閉めしてから、広い後部座席に乗り込んだ。
「お前に運転を任せたい」
豊橋が言った。
「それは残念だ。俺はこれから、このあまりにも広い後部座席を、フラットにしたり前後にスライドしたりして遊ぶところだ」
「後でたっぷり遊ばせてやる。とりあえず、早く出発したい」
言われて、俺は渋々運転席に乗り込んだ。
「新社会人時代、1998年式の中古のバルケッタが愛用車だった俺には、右ハンドルでATで屋根がついているファミリーカーのエンジンは、かけ方すら解らん」
「古い人間は不幸だな。そのボタンを押せ」
「あの物件に住んでいるとしたら、俺なら吐けないセリフだ」
俺は車を走らせた。
「行先は?」
「俺が指示する通りに走ってくれ」
「ナビの設定する時間くらい欲しいところだがな」
「ナビは駄目だ。理解しろ」
言われて、豊橋が何故、こういう回りくどい方法を取っているのか、なんとなく解ってきた。相変わらず慎重で用心深い奴だが、その性格が俺たちの命を護る事になるだろう。まあ、本心から慎重であれば、ダークウェブで訳の分からない物品を買ったりはしないだろうがな。
随分長い距離を走った。高速も使い、かれこれ50㎞は走っただろうか。
「…そこのコンビニだ」
「どうした。トイレ休憩か?」
俺は、コンビニの駐車場に車を停めた。
「さて…俺が行くか、お前が行くか…」
豊橋が、顎を触りながら呟いた。嫌な予感しかしない。
「おい、トイレならお前の代わりに俺が行くことはできんぞ。30年前のコロコロコミックみたいなギャグを真顔で言うんじゃない」
「やはり、俺が行こう」
言うと、豊橋は助手席から降り、コンビニへ入っていた。そして、amazonの箱を抱えて戻ってきた。
「…何の感想を言っていいか解らねえ」俺は、助手席で箱を開け始めた豊橋を見ながら言った。「だが、お前の事だ。意味のない行動をしている訳ではあるまい」
「その通りだ。話している暇があったら、車を走らせろ」
「走らせろって、どこへ?」
「どこでもいい。常に居場所が変わっている事が重要だ」
「へっ」俺は、それで豊橋がしようとしている事を大体理解した。「その感じだと、携帯の電波が届かない山奥は避けた方が良さそうだ。高速を延々と走る事にしよう」
「ああ、そうしてくれ。電波は届かない方が都合は良いが、リアルに消される可能性があるからな」
豊橋は、箱から小型のノートPCを取り出した。
「今時見ないサイズのPCだな。深センか?」
「GPDのUMPCだ。箱のサイズを偽装できるからな。まさかPCが入っているとは思うまい。バックドアでも仕組まれていたらより好都合だ。意図せず情報が流出したとなれば、俺たちを殺すだけでは意味がなくなるからな」
豊橋は器用に電源を入れると、USBメモリを挿し込んだ。
「さて…。中身を拝見するとしよう」
豊橋は、パスワードを順番に入れて行った。一部はキーボードから、もう一部はソフトウェアキーボードから、入れて行った。
「潔癖症だな」
俺が、パスワードを入れる豊橋に言った。豊橋は、念には念を入れているだけさ、と応えた。
「…なるほど」豊橋はキーボードから手を離すと、顎に手を当てて呟いた。「これは確かに設計図だろうな」
「そうか、それはめでたいな」俺が言った。「レゴブロックの説明書とどっちが親切だ? いずれにしろ、プラモデルは俺の得意分野じゃない」
「心配は無用だ。暗号化された設計図と思われるファイルがひとつ、あとはstl形式のファイルばかりだ」
「stl? 聞かない拡張子だ」
「3Dプリンタの汎用拡張子だ。CAD界隈ではstepを使うがな」
「見えて来たな」俺が言った。「つまり、3Dプリンタで筐体をプリントし、送られてきた部品を組み入れれば完成って訳だ。小学生の夏休みの自由研究並みに面倒な宿題を押し付けられちまったって訳か」
「…その様だな。そんなに単純な話であれば良いが」
「俺は小学生の頃『週刊恐竜ザウルス』を7巻までしか買わなかったが、今回ばかりは、このディアゴスティーニを完成させられるって訳だ」
豊橋は、PCを閉じた。
「造形の中身は俺の自宅PCで確認する。戻ってくれ」
「おいおい、ここまで用心深くしておいて、戻れってのか?」
豊橋は首肯した。
「用心したのは、USBメモリの内容が、それを見た瞬間に俺たちを殺害しなければならない程センシティブな情報である可能性を考慮して、だ。だが、どうやらお前の言う通り、まだ組み立てはこれからだ。3Dプリンタを手配し、奴らを安心させる必要がある」
「やれやれだな」俺が言った。「このまま軽く交通事故でも起こして、やむなく警察に取り上げられた方が平和な気がして来たぜ」
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