赤宮探偵の事件簿

akamiyamakoto

プロローグ-0 3年前(■視点)

 ぐちゃぐちゃという気持ち悪い音で少女は目を覚ました。


「―――――」


 目を覚ますべきではなかった、ずっと夢を見るという現実逃避を続けていれば良かったと、少女は思った。


 目の前の光景は、自分よりも年上だろう誰か達が、自分を見ている。血塗れの、姿で。

 おまけに自分は、どうやら拘束されているらしい。


「―――、――――――?」


 知らない言葉、何を言っているのかわからない。わけのわからない現状に、少女は涙が出そうだった。


「嫌だあぁぁぁぁぁぁ!!」


 男の声。そちらを向くと、少女と同じく拘束された男が、泣きながら絶叫していた。


「ごめんなさいごめんなさい! あ、謝るから、この事は、誰にも―――」


 ぐちゃ――男は食べられた。何に? ……獣のような人のような、何かに食われたのだ。


 少女は悟った。自分は贄だと、あのナニカのために、この誰か達が用意した食糧なのだと。


「い、嫌……嫌ぁ…!!」


 暴れる。そんな事をしても拘束具は破壊できない。

 怖い、怖い怖い。嫌だ、嫌だ嫌だ―――、少女の思考は、恐怖と拒絶で満たされた。


 それを見て、誰か達は面白そうに嗤った。ナニカは、活きのいい食糧だと、嗤った。


 ―――"男"は、ただ静かに佇んでいた。


 ―――誰? さっきまで、あなたはいなかったよね…?


 それに気づくやいなや、少女の口は動いていた。


「―――たすけて」


 奴等の死角になる位置にいて、少女からは見える位置にいる俺は、その声を聞いた。…聞いてしまった。


「―――たすけて」


 いや、駄目だろう、ここで動いて助けては。せっかくここまで見つからずにいたのに。

 だというのに、体が動く。駄目だ、動くな。


 ―――わかっている。ここで動か助けなければ少女は死ぬ。


 だが、それでは全てが徒労に終わる。非情にてっさないといけない、のに―――。


 この少女を見ているとどうしても、目の前で死んだ、もう名前も思い出せないあの子を思い出してしまうんだ。


「……あぁ、その依頼、承った」


 それじゃあもう、見捨てられない。どうしても、助けたくて―――。


 ―――結果、俺はここにいる彼女を害する者を、皆殺しにするのだった。


 それは一瞬だった。口に出したと思えば、次の瞬間。


「……あぁ、その依頼、承った」


 なんて言葉が聞こえて―――。


 次の瞬間、少女を嗤っていた誰か達は全員血塗れの姿で倒れた。元から血塗れであったから、少女は倒れた"だけ"だと思った。頭から血が流れているのに、気づかなかった。


「――――――!!」


 ナニカが叫ぶ。怒りからくる咆哮かもしれないし、驚きからくるものなのかもしれない。ナニカは、男に飛び掛かった。


 人の目でギリギリ捉えられるかどうかのスピードで襲うナニカの攻撃を、男が回避できるはずもなく。


 あぁ、駄目だ。少女はせめて無残な死体だけは見えないようにと目を瞑った。


 バンバンッ!! という音とともにナニカの咆哮がきこえる。


「…邪魔だ、邪魔をするな…怪物」


 男の声だ。少女は目をあける。見えた光景は、うずくまるナニカと何か――おそらく銃――を構える男の姿。


 すると何を思ったのか男はナニカの口に手を突っ込み、そこからバズンッという音がした。

 そのまま動かなくなるナニカ。


 ―――男はこちらに近付いてくる。


「無事か? もう、大丈夫だ。大丈夫だから、泣くな」


 どうやら自分は泣いてるようだ。少女がそう気づくと同時に、睡魔もやってきた。


「怖かった……怖かったよ―――」


 そう言って少女は静かに眠った。最後まで、大声で泣くこともなく。

 少女の目から、涙はとまっていた。


「……もしもし、俺だ」

『あ、オレオレ詐欺は間に合ってますよ』

「……ふざけるな、吉君。……例の依頼、完遂だ。一応迎えを頼む。車は今回足がつくと思って使っていないからな……」


 電話先の軽口を一蹴する、ふざけるのも大概にしてほしい。


『へぇ? 君なら普通に帰ってきそうだけど……何かあったの?』


 流石に真面目な対応をしだした彼に伝える。


「一応病院で診てもらいたい。療一にあけておくよう伝えてくれ」

『…それは君が怪我でもしたってこと? ……いや、違うね。誰か保護したんだね?』


 話がはやくて助かる。拘束を解いて保護した少女に視線を向けて言う。


「…アルビノの少女を一人保護した。衰弱がひどいし、見たくないものを見ている。精神的にも不安定かもしれない」

『…わかった。すぐ迎えを寄越すよ。女の子用の服も一応もってこさせる。……君も少し休んだ方が良さそうだね、君も療一君に診てもらってね。後、しばらくその女の子の事とかで忙しくなるだろうし、しばらく依頼は休んでね』

「……あぁ、そうしてくれると、助かる」


 少し疲れているのは自覚している。この申し出はありがたい。


『あ、もし親が見つからなかったら君が父親になってね? 君と桜歌君子供欲しがってたしいいでしょ? その子も知ってる人と一緒にいられる方がいいだろうし』


「…あぁ、頼む…………待て、今なんて言った……?」


 今すごい事言わなかったか?

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