見えない川のほとりで

阿紋

元カノの部屋にて

ぼんやりと外をながめている。

窓の外に見えるのはビルばかり。

その向こうに橋が見えるけど川は見えない。

はっきりとしない空の色。

青いようで青くない。

雲もフニャッとして輪郭がはっきりしない。

何となく自分を見ているよう。

そう思った。

部屋の中にはクラシック音楽が流れている。

音楽でも聴こうと思ってCDラックをながめてみたけれど、

聴きたいものはなさそうな感じだった。

ほとんどが少し前に流行っていたJポップばかり。

趣味良くないよな。

ていうより、やっぱり僕とは合わなかったってこと。

そんなことを考えていたとき、

ぼくはラックのすみに収められていたショーソンを見つけた。

「まあいいか」

ぼくはそのCDを取り出して聴いている。

前にぼくがあげたCDはどこにいっちゃったんだろう。

仕舞い込まれちゃったのかな。

それとも売りとばされちゃったのかな。

それもとゴミ。

それは彼女の性格からしてありえない。

すこしでもお金になるものをゴミに出したりはしない。

そう、ぼくと彼女は全然合わなかったんだ。

そのことはぼくも彼女もよくわかっている。

それでも彼女は少しイヤそうな顔をしただけで、

ぼくを部屋の中に入れてくれた。

どうして。

いまのところカレシはいないのかな。

それともぼくがよほど情けない顔をしていたのかな。

「これからどうするの」

ぼくはずっと黙ったまま。

「しょうがないね」

あきらめたような彼女のため息と声。

冷蔵庫の中をのぞいてみる。

ほとんど何もない。

部屋で食事はしないのだろうか。

そうだったかなあ。

たしかに彼女が料理をしているところを見たことはない。

たまにスーパーでお弁当を買ってきたことは覚えている。

いなり寿司が好きだったなあ。

缶ビールが何本か奥の方にある。

あいかわらず飲んではいるみたいだ。

「コンビニはダメなの、高いから」

そう言ってわざわざ遅くまでやっている遠くのスーパーに寄って来る。

コンビニはすぐ近くなのに。

「外食するより安いんじゃない」

「そう」少し不機嫌な彼女の顔。

なんかずっとそんな顔ばかり見ていた。

つきあいはじめたころはそんなんじゃなかったのに。

久しぶりに会った彼女は少し変わっていた。

出会った頃に近い感じ。

でも、そう長くは続かない。

そんな予感がしている。

「別にいいか。そんなに長くここにいるわけじゃないし」

ぼくのひとりごと。

「出かけるときはちゃんとカギ閉めてね」

カギを渡される。

それはぼくが以前持っていたもの。

別れるときに彼女に返した。

不思議な感じがする。

そうか、こんな時間に彼女の部屋にいたことってなかったよね。

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