第4章 必要とされたい

第12話 捨てたい過去(性描写有り対象:性行為の回想)

「ほんとにいいんだね?」


 ●●私をベッドに預けさせ、おじさんが優しい声で言った。

 直ぐに夢だと分かった。

 家出をして三カ月は経った頃の宿主だ。名前は憶えていない。

 顔は悪くはなかったけれど、好みではなかった。穏やかな雰囲気で、乱暴なことはしてこなそう感じだったので、お礼付きで泊めさせて欲しいと私から伝えた。


「いいよ」


 私は●●●●●●●●●●●●●●●●●●、恥じらいを見せながらも、精一杯、余裕たっぷりな微笑みを浮かべた。

 一度経験してしまえば、後はお茶を飲むような感覚で、男の人との行為ができると思っていた。実際、そういう女性もいるらしい。

 でも、私は違った。

 好きでもない人との行為はいつも緊張するし、自分で自分を貶めている気がして、どんどん惨めな気持ちになった。

 住まわせてもらっている以上、不快な気持ちは表に出せるはずがなくて、私は本音を見抜かれないよう表情や態度をウソで固めていった。

 ●●●●●●●●●●●●●●、●●●●●●●●●●●●●●。私は顔をしかめた。


「うっ」

「痛くない?」

「うん、大丈夫」


 私は頷く。

 はっきり言って、痛かった。でも、その痛いのが良かった。

 私を気持ちよくさせようする男の人は多かったと思うけど、私の緊張はほぐれることはなくて、私も気持ちよくなりたいわけじゃなかったから、代用品で済ませることも多かった。たしか、彼の場合もそうだったと思う。


「ミサキちゃん……ッ」


 彼が●●●●●●●●●●●●、私を呼んだ。

 それは私の名前じゃないけれど、今はそれが私の名前ということになっている。

 彼が●●●●●●●鷲掴みし、五指を食い込ませてきた。


「あ、んんっ」


 私はあたかもそれらしく、可愛い声を出して見せた。

 正直、行為中のことはあまり覚えていない。

 感じていたのか、気持ち悪かったのか、それすら分からない。

 ●●●●●●●●●●●、●●●●●●●●●ヒリヒリと痛かったことだけは覚えている。

 ただ、喘ぐような声さえ出していれば男の人たちはそれだけで満足してくれて、また私を必要としてくれた。

 今まで誰からも必要とされなかった私が、身体を重ね合う瞬間だけ、目の前の男性から求められる。

 この事実が、私の心を満たしてくれた。

 息を切らしたおじさんが、●●●●●●●●●●倒れ込んだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……ミサキちゃん、どう? 気持ちよかった?」

「うん。おじさん上手だったから」


 こんなこと、おかしいことも分かっていた。

 私は身体を貸しているだけだ。だから平気だって、何度も自分に言い聞かせた。

 でも行為を重ねていくうちに、どんどん自分が安っぽい人間なっていくよう気がして、何かが削られていくようだった。

 ●●●痛みは、そんな私への罰みたいなもので、逆に痛いことが安心感になった。


「じゃあ、もう一回いいかな」

「ん……いいよ」


 私が応じると、●●●●●●●●●●、●●●●●●●●●●●。

 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●、●●●●●●●●、何かが頬を伝わり落ちていくのを感じた。

 触れると、手が濡れた。


「え……? な、なに……」


 気付くと、涙が次々と頬を伝っていく。困惑して、涙をぬぐう。


「どうしたの、ミサキちゃん?」


 ●●●●●●●●●彼が、声をかけてきた。

 涙でおじさんの顔がぼやけ、歪んで見える。


「な、なんだろ、分かんな……ひっ」


 おじさんの顔が変化した。知っている顔だ。私を毎日のように抱いた、いつだかの青年だった。


「ミユキちゃん」


 そして、また次の顔へ――。


「ユリコちゃん」


 また、次へ――。


「アカリちゃん」

「エリカちゃん」

「ミカコちゃん」


 次々と変わっていく男の人の顔。全て、憶えがあった。


「……イヤッ!」


 怖かった。私はこれだけの男の人に求められ、そして、捨てられたのだ。

 胃がギュッと締め付けられるような感覚がして、私は身体を縮こまらせた。

 誰か、助けて――。

 もう捨てられるのはイヤ。

 喉から振り絞るような声で呟くと、視界がグラグラと揺れた。

 男の人の顔と、天井がゆらゆらと不自然に揺れて、崩れ落ちる。


「おいっ! 沙優っ!」

 

 私の名前を呼ぶ声が遠くから聞こえた。

 吉田さんの声だった。



<あとがき>

 沙優の心情を強調するために、生々しさを意識して行為を描きました。逆に沙優のハグシーンと違って、エロさを感じさせないようにも気を遣いました。

 令和5年1月27日運営よりR18相当ということで修正指示が出ましたので、●で字を消す方向で修正しました。とりあえず伝わるようにはしています。

<台詞の引用および参考>

 カクヨム版『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』(著:しめさば)7話 悪夢  -沙優side より

https://kakuyomu.jp/works/1177354054882739112/episodes/1177354054882769095

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