三毛猫は彼氏を見ている③




―――もしかしてあの薬が効いたの!?


正直な話半信半疑だったが、それ以外に心当たりがないためそうとしか思えなかった。 だがだとしたら酷い占い師もあったものである。


―――いや、違うって!

―――私はこういう本物のペットになりたかったんじゃないの! 


もう占いなんてものを超越しているが、そこは深く気にしないことにした。 現に自分の身に起きていることが真実なのだ。 全身を改めて確認してみるとやはり見覚えのない三毛猫の体。 

確かにペットになりたいとは言ったが、猫になりたかったわけではない。


―――空智がご主人様となって俺様系になったら、もっとグイグイ来てくれるかなって思ったの!

―――私はただ首輪を付けて、従順なペットみたいになりたいと思っただけで・・・!


だがそれも大概な妄想である。 首輪を付けて飼ってほしいなんて言えば大抵の人は引くことになる。 加恋もそれは分かっているため実際に言ったことはない。 

ニュアンス的な意味として、何となくそういう境遇になってみたいと望むささやかな希望だった。


―――効果は12時間、か・・・。

―――昨日寝たのが0時で今は朝の8時。

―――効果が切れるまであと4時間。


ということで加恋は吹っ切れた。


―――こうなったらもう仕方がないよね!

―――折角だし、ペットの気分でも味わっちゃおうかな! 


早速家を出て空智の家へと向かおうと思った。 だが玄関のドアを開けるのは少しばかり難易度が高い。 適当なチョーカーを選ぶとそれに鍵を付け首にかけた。 

これでとりあえずは野良猫と思われて追い出されることもないだろう。 ベッドに上り窓際で必死に鍵を開け、窓も開け外に出ることにする。


―――たっかぁ・・・!

―――猫ってこんなに高いところでもぴょんぴょん跳ねて移動してるの?


体の具合も分からず行くのは自殺行為に思えた。 ということで、部屋で少しばかり体を動かしてみる。


―――お、案外いけるもんじゃん!


そして、しばらく試してみたのち窓から家を脱出する。 テクテクと塀などを歩き、まさに猫の気分。 意外と他の猫に出くわさないものだなと暢気に考えていた。


―――着いたけど、強敵が現れた・・・。


だが空智の家へ着いて行き詰った。 空智を呼び出す手段がないのだ。


―――どうやってチャイムを鳴らそう?


先程の窓の時と違いインターホンはかなり高い。 跳び付いたりドアをよじ登ったりしながら、何とかしてチャイムを鳴らすことができた。 それに反応し空智が出てくる。


―――あ、空智!


期待を込めた目で見つめる。 だが空智はポカンとしたまま首を傾げていた。


「今インターホンが鳴ったと思ったけど・・・。 三毛猫? まさかね・・・」


―――お邪魔しまーす。


「あ、おい! 勝手に入るなって! このアパートはペット禁止なんだよ・・・」


―――それは知っているけど、ごめんね?

―――大人しくしているから安心して。

―――12時になったら元の姿に戻るだろうし、驚かしてやろう。


部屋の奥へ進んでいくとひょいと掴まれた。


「ニャッ!?」

「せめて足は拭いてくれ」


後ろを見ると確かに足跡が付いていた。


―――ごめんなさい・・・。


足を拭かれベッドの上に寝転がる。 その横に空智が座った。


「困ったなぁ。 野良猫かな? って、首に何か付いているな? ・・・鍵? 何か見覚えがあるような」


加恋は空智の顔をジッと見つめる。


―――気付いて!

―――私の家の鍵だよ!

―――・・・合鍵は交換しているんだけど、流石に分かるはずがないかぁ。


考えている通り、空智は結局分からず仕舞いで首を捻るばかり。 部屋にいる間ずっと空智にべったりとくっついていた。


「何故か異様に懐かれているし・・・」


空智の膝の上に乗ったりよじ登ったり。 普段はここまでは甘えられないため、猫になってよかったと初めて思えた。


―――んー、空智の温かさをダイレクトに感じる・・・。

―――幸せだぁ・・・!


「加恋とか引き取ってくれないかな・・・。 加恋の住むところはペットOKだったよな?」


そう思ったのか空智は加恋に電話をかける。 当然だが家に携帯を置いてきたため電話には出られない。


「あれ、出ない・・・。 まだ寝てる?」

「ニャー」

「ん? 悪いけど、この家には猫用の餌とかないんだよ」


そう言って頭を撫でられる。


―――そんなものはいらない。

―――空智と一緒にいられるだけで十分だから。


スリスリと空智に頬を擦り付けた。


「あ、そうだ。 朝風呂まだだから入ってこよー」


―――お風呂?

―――そう言えば、空智は朝風呂が好きなんだっけ。


去っていく後ろ姿を見つめていると空智が振り返った。


「ん? もしかしてお前も一緒に入りたいのか?」


―――え!?


「一緒に風呂来る?」


そう言って加恋を抱えようとした。 懸命に首を横に振りジタバタとする。 その様子を見た空智は苦笑した。


「そんなに嫌がらなくても・・・。 まぁ、猫って風呂は苦手だっけか」


空智は一人で風呂へと向かっていった。


―――驚いた・・・。

―――急に一緒にお風呂だなんて恥ずかし過ぎるよ!


空智のいなくなった部屋をぐるりと見渡す。


―――よしッ!

―――私に積極的にならない理由。

―――やましいものがないかを見つけ出してやる!


そうして空智の部屋の捜索が始まった。



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