第159話 星暦553年 橙の月24日 これも後始末?(7)

「成果の方はどう?明日はお祭りに遊びに行っても良いかしら?」

シェイラが夕食のワインを軽く味わって試しながら尋ねた。


「探すと最初に計画した部分は全部探したし、街の中心部とパレードのルートは昨日と今日の間に再確認できた。

一応魔具を使った大がかりな被害は出ない可能性が高いと思うが・・・」

決まった建物の中だけを探せば良いわけではない。

しかも街の中は人の出入りは自由なのだから、祭りの当日に魔術師や魔具を持った人間が入ってくる可能性はそれなりにある。


はっきり言って、シェイラが来ることには不安しか感じられない。


「何か自信がなさげねぇ。

裏社会にも顔の利くウィル魔術師の意見はどうなの?」

シェイラが悪戯っぽく笑いながら聞いてきた。


「おいおい。

裏社会に属していたのはガキの頃の話だぜ。それ程色々知っていた訳じゃあないし、顔が利くなんて言うレベルじゃあない。

第一、今回みたいな国家レベルの嫌がらせなんて裏社会のトップでもどうして良いか分かっていないんじゃないかなぁ?」

肉を切り分けながら答える。


本当に頭が痛いよ。


「・・・国家レベルの嫌がらせ??」

シェイラの質問で、口を滑らせたことに気が付いた。


やべ。

嫌がらせだなんて考え方がどこから来たのか聞かれても、答えられない。


「えっとぉ・・・。

つまり、今回の案件ってどう考えてもアファル王国の領土を削り取る為の行為じゃないと思うんだ。

別に、1つの街での王太子の婚約祝いの祭りで人を沢山死なせたところで王国が不安定化する訳じゃあないし、軍人が減るわけでもない。

ファルータ領の生産性は下がるかも知れないが、それが国の地力に影響を与えるかと言われたら、かなり長期的な話になるだろ?

つまり、今回の事って仕掛けてきた側にはあまり得るものは無い、つまりは嫌がらせだとしか思えないんだよね」


まあ、俺が嫌がらせだと思ったのはファルータ公爵への報復だと聞いているからだけど。

報復って要は『嫌がらせ』や『八つ当たり』を大げさに言っているだけのことだ。


「ふうん。

今回の事件って他国の人間が仕掛けてきた話なのね?

てっきり国内の反体制派とかファルータ家に恨みのある組織の仕業なのかと思っていたわ」

野菜のソテーを取り分けながらシェイラが言った。


げ。

俺、余計な情報を出し過ぎてる??


頭の良い人間ってこっちがちょろっと零した情報からどんどん真実を推察しちゃうから、困る。


思わず動きを止めて固まってしまった俺を見て、シェイラが笑った。

「分かったわ、これ以上聞かないでおいてあげる。

ファルータ領に来る依頼を請けたときに聞いた説明にも、私に言えないことがあるんでしょうし。

それで結局、明日は行っても大丈夫なの?

何か騒ぎが起きても、パニックした人の流れに巻き込まれないように適当な店なり建物に入ってやり過ごすぐらいのことは出来るわよ?」


「いや、下手をすると街が炎に包まれるかも知れないから。

パニックした人の流れも怖いが、建物の中に居て火に巻かれるのもヤバい。

・・・いや、火事だったら清早が消せるのかな?

清早、ファルータの街で一斉にあちこちから火が起きても、消火できる?」

清早の名前に魔力を込めて呼びかけ、尋ねてみる。


「おう、勿論だぜ。

ただ、火によっては水を掛けると更に爆発するタイプのこともあるんだよね。

そういうのだった場合は風のに協力を頼まなきゃいけないから、ちょっと時間がかかるかも」

ひょいっと宙から清早が現れて答えた。

一瞬周りの反応が気になったが、周りのテーブルからは死角になっているのでシェイラ以外には見えていないようだ。


「なあに、それ?

水を掛けると爆発するって?」

シェイラが興味を持ったようで聞き返す。


「特殊な薬品を使って起こした炎でそう言うのがあるって話だ。

滅茶苦茶高いらしいから、俺も実物を見たことは無いけど。

清早、その特別な炎を起こす物質がファルータの街に入っているか、分かる?」


清早が首を横にふった。

「あれは別に特別な力が籠もっているという訳じゃあないから、街全体の中からそれがあるかを調べるのは無理だね~」


タレスの焔だっけ?あの薬品って目が飛び出るほど高いと聞いた。

流石に嫌がらせにはそんな物は使わないか?


それとも、国家予算が関わる案件だと、裏社会の人間にとって『目が飛び出るほど高い』というのも『大したことはない』レベルに落ちるのだろうか。


「シャルロに頼んで、蒼流に来て貰ったら何か変わるかな?」

清早が頼りにならないと言うつもりはないが、蒼流は明らかに上級精霊だから力のレベルが段違いに高い。


「蒼流だったら完全に全部水没させて火を消すことは出来るけど、そうすると周りの人間が溺れ死んじゃう。それでも良い?

シェイラだけは俺が守っておくけど」


おっとぉ。

それは駄目だ。

頼んで助けて貰うのに、結果的に人殺しの責任をシャルロに負わせてしまうリスクは犯せない。


「じゃあ・・・万が一と言うこともあるから、シェイラは悪いけど今回の祭りは避けてもらえない?

次回、こっちなり王都なりで祭りが開かれる時に一緒に見て回ろう」


シェイラが肩を竦めた。

「分かったわ。

ちょっと残念だけど、この様子じゃあウィルの注意も私でもお祭りでもないところに集中していて、あまり楽しめなそうだし」


確かに。

次回に乞うご期待って奴だな。

本当に、ガルカ王国って碌なことをしないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る