第158話 星暦553年 橙の月20日 これも後始末?(6)(シェイラ視点)
>>サイド シェイラ・オスレイダ
「シェイラ!」
今日は休養日なのでファルータとヴァルージャの間にある湖畔でピクニックをしようという話になった。
とは言え、ウィルは何やら忙しいらしく、2刻程度しか時間は無いらしいが。
「ウィル、おはよう。
晴れて良かったわね」
宿に用意して貰ったピクニック用のランチバスケットをウィルに渡し、軽く頬にキスをする。
「・・・おう」
耳を赤く染めたウィルが一瞬口ごもった後に言葉を返し、私の頬に軽く触れる。
ふふふ。
いい加減、恋人同士の軽い挨拶の触れ合いにも馴れれば良いのに。
この初心さは一体どういう環境で培われたのかしら?
「じゃあ、早速行こうか。
今日はあまり時間がないからな。
話したいこともあるし」
気を取り直したウィルが私の手を引いて
ふむ。
領都ファルータで何をやっているのか今までの夕食では言ってくれなかったが、そこら辺のことを説明してくれるのかしら?
魔術院の秘密の任務なのかしら?
まだ魔術院を卒業して数年の若手魔術師がそんな機密任務を任されるとは考えにくいから、魔術院内でのみ情報公開しているのかも。
お陰で殆ど会話をするまもなく、長閑な湖畔にたどり着いていた。
「そう言えば、俺の事ってどの位知っている?
アレクの家族なんかは俺があいつと魔術学院でそれなりに親しくなった際に詳しく調べたようだが、シェイラも家族に聞いてみた?」
湖の畔にラグを引いてピクニックの品々を広げながら、ウィルが聞いてきた。
流石シェフィート商会。
学生時代の友人付き合いでも、相手の情報を調べるのね。
まあ、あそこの次男は情報管理に凄く注意を払っているので有名だ。
「私からは聞かなかったけど、向こうから何やら送ってきたわよ。
下町にコネがあってシェフィート商会を助けたこともあるらしいから、是非オスレイダ商会にも手を貸してくれるよう頼めって」
あれは本当に不愉快だった。
「下町の孤児で、学長である特級魔術師のアイシャルヌ・ハートネットにその才能を見いだされて魔術学院に奨学金入学した魔術師。
魔術学院の成績は中の上程度だが、何か特殊技能がある様子。
オレファーニ侯爵家の三男及びシェフィート商会のアレクと仲が良く、魔術学院卒業後は3人で魔具開発の事業を開始。
直接開発者として名前は出ていないが、最近シェフィート商会から売り出されてそれなりに話題になった魔具を開発したと思われる。
といったところかしら」
ウィルが肩を竦めながらワインのボトルを開けた。
「意外と、通り一遍な情報だな。
アレクの兄貴はもっと掘り下げてたぞ」
あら。
「私の恋人のことを勝手に調べていることに腹が立ったけど、シェフィート商会に負けたと聞くとちょっとそれはそれで悔しいわね」
感情って合理的な物じゃあないのよね。
「俺は下町出身だが、学院長に会ったのは
つまり、俺は
折角魔術師になって、まっとうな職業で金を稼げるようになったんだからギルドからは足を洗っているが、時折ギルド経由で頼まれ事をしたり、学院長がギルドに頼み事をしたい時なんかに間に入ることを頼まれることがある」
サンドイッチをバスケットを取り出しながらウィルが説明した。
「へぇ。じゃあ、今回のファルータでの仕事もその
サンドイッチの包みを剥がしながら尋ねる。
シェフィート商会の次男はこの事実を探り当て、実家の情報担当は探り当てられなかった訳なんだ。
駄目ねぇ。
そんなんだから、いつまで経っても中堅どころなのよ。
「俺の魔力はたいしたことは無いが、
あっという間に手に取っていたサンドイッチを食べ終わったウィルが説明した。
ちゃんと魔術学院で教わったのか、ウィルの食事の行儀は悪くは無い。
口に物が入っているときは話さないし、フォークやナイフでギーギーと音をさせたりもしない。
だが。
何故か、下品ではないのに食べるのがもの凄く早い。
ちゃんと噛んでないんじゃないかしら?
消化に悪いわよ~。
「ふうん。
何を探しているかは、聞かないでおくわ。
確かに、何百年も昔の遺跡に掛けられた魔術を見つけだせるんだから、最近に掛けられた魔術を探すのなんて簡単よね」
「探し物っていうのは隠し場所を見つけるのが一番大変だからね。
どこに隠されているか分からないから、手当たり次第に調べているんで時間が幾らあっても足りないんだよ」
ため息をつきながらウィルが答えた。
なるほど。
確かに、場所さえ分かれば探し物なんて見つかったも同然よね。
幾らウィルの
「時間が幾らあっても足りないって事は締め切りがある訳?」
ウィルがこちらに居てくれるのは嬉しいのだが、裏ギルド経由で頼まれた探し物がいつまでもだらだらと続けられる物だとは考えにくい。
というか、休養日とは言ってもノンビリ私とピクニックに行ったり、ファルータの『美味しい』と勧められたレストランを探してそこで私と夕食を取る暇なんてあるの?
「一応、王太子の婚約祝いの祭りまでとなっている。
シェイラと祭りを見て回りたいと思っていたんだが、その時間があるかどうかちょっと微妙かも知れない」
ため息をつきながらウィルが答えた。
「あら。
じゃあ、お祭りは一人で見て回れってこと?」
折角楽しみにしていたのに、がっかりだ。
ウィルが首の後ろを揉みながら答えた。
「あ~。説明は出来ないんだが・・・もしも俺がシェイラと祭りを見て回る余裕が無さそうだったら、領都ファルータそのものに、祭りの日は来ないで欲しいな。
遺跡発掘隊の皆も来ることを考えているようだったら、祭りのことを忘れるよう誘導してくれると更にありがたい」
なにそれ。
単なる盗まれたなり置き違えた魔具探しじゃあ、無いわけ??
「ちょっと!
ウィルは大丈夫なんでしょうね??危険ならちゃんと逃げてよ!」
どう考えても、ファルータで起きる事件でウィルが身を危険にさらす必要性は無いはずだ。
王都出身で、私が遺跡発掘の依頼を出すよう誘導するまでファルータ公爵領にすら来たことが無かったであろう人間なのに。
「自分一人のみなら、どうとでもなる。
シェイラが一緒でも多分大丈夫だと思うんだが、あまりにも危険そうだったら何かあった時にはぐれたら危険だからね。その場合は来ないで貰いたいとお願いするかも。
一番怖いのは、俺が知らない間にシェイラがファルータに来ていて危険な目に遭うことなんだ」
ウィルが怖いほど真剣な目で私を見つめながら答えた。
そう。
魔術師だものね。
しかも裏社会の事も知っているみたいだし。
ウィルのことは心配しなくても大丈夫だと、信頼するからね。
私の信頼を裏切ったら、酷い目に遭わせるわよ?
「分かったわ。
じゃあ、お祭りに行くかどうかはウィルの判断に任せるから、あなたは無理をしないと約束してね?」
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