第123話 星暦553年 萌葱の月29日 温泉って良いよね(5)

「ほおう、これが温泉というものか。

確か西の方の国にもあると聞いたことがあるが、実際に見たのは初めてだな」


昨日はあの後、温泉にうっとりしていたアスカを急き立てて地上の浴室に人間用の湯船を創り出すのに協力してもらった。

構造としては下の浴槽から繋いだパイプからポンプでゆっくりお湯をだし、常に掛け流し状態にして湯船の中のお湯を綺麗にキープするようにした。


ちなみに、お湯に関してはアスカはしっぽり満足していたが、人間にはちょっと熱かったのでパイプを更衣室の下へ少し迂回させることで熱を逃がし、更に湯船に流れ落ちるポイントも少し上から落とすことで温度調整した。


勿論、夏には更衣室を暑くしない方が良いので、季節によって更衣室の下は通さずに水を引いてきて冷ます仕組みと切り換えられるように作っておく必要がある。


・・・これは上の建物を作る前に組み込んでおく方が良いだろうな。

だが、取り敢えずは俺たちが温泉を楽しみたかったので後回しにした。


で、昨晩はゆっくりのんびりお湯を楽しんだ。

良かったぜ~。


今日は学院長に温泉を披露しているのだが、学院長もなかなか気に入ってくれたようだった。


俺達としてはとりあえず見せるだけ見せて、夜にでも入ってもらおうと思っていたのだが・・・学院長はさっさと服を脱いでタオルを手に温泉に入ってしまった。

説明する立場の俺達にもさっさと来いと言い残して。


まあ、学院の寮にあるシャワー室だって共有だったけどさ。

でも、教員は入ってこなかったからなぁ。

学院長(や他の教師陣)と裸の付き合いをすることになるのはちょっと違和感があると言えばある。

でもまあ、温泉の魅力に囚われたら、そんなことはどうでも良くなるか。


「はあぁぁぁ。

いい気持ちぃぃ~」

ささっと体を洗って湯舟に体を沈めたシャルロが深く息を吐いた。


昨日も入ったんだけどね。

でも、本当にいい気持ちだ。


思わず、俺とアレクも「ふはぁぁぁ」と息を吐いていた。


「これは確かに正式な入浴設備として整備してがっつり使うべきだな。

一つしかないが、女性陣は時間を変えて使うことを想定しているのかね?」

学院長が訊ねてきた。


「いえ、女性用も同じサイズで作ろうと思っています。

折角こんなに気持ちのいいモノなのに、ほかの人と取り合いになったりさっさと出ろと急かされたりではリラックスできませんからね。

ちゃんと必要な魔具やパイプなどは用意してあります」

アレクが答えた。


「流石、賢明だな。

では、もう一つの浴室や更衣室の基礎の方も造っておいてくれ。

私は上の建物を設置する手配をしておこう」


「分かりました。

ちなみに、昨日話しましたように、我々にはいつでも男性用温泉を使用する権利を恒久的に認めていただけるということでよろしいでしょうか?」

俺達は温泉を作る費用に関して請求するつもりはない。

だから、恒久的な使用権だけを俺たちに認めるという契約書(ついでに、設備で誰かが転んで怪我をしても俺たちに責任はないし、魔具の充填や修理は学院の責任としてある)を既にアレクが準備してあり、学院長にも見せてある。


「勿論だ。後で契約書に署名して渡すよ」

現物を見ないことにはその設備の保守とかを学院がすると契約を結ぶわけにはいかないと言われたのだが、これで大丈夫だろう。


ふふふ。

やったぜ~!


ちなみに、契約書にはアスカの浴槽のことも書いてある。

もっとも、俺が死んだらアスカの権利を主張する人間がいなくなるのでその後は追い出されても諦めてくれとはアスカには言ってある。


・・・というか、俺が死んだらアスカは現実界に今ほど簡単に出てくることが出来なくなるから、温泉は幻想界で楽しむことになるか。


まあ、先のことだからそれはどうでもいいや。

取り敢えずは、これから毎日温泉を楽しむぞ~!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る