第57話 星歴553年 藤の月25日 防寒(3)

「いた!」

俺がアレク向けて投げた小石が防寒・防御結界に弾かれ、横にいたシャルロに当たった。


「あ、悪い。

これって傍に防御結界を付けていない人間がいると、そいつが弾かれた矢なりナイフなりで傷つけられる可能性があるな」

シャルロに謝りながら注意点を手帳に書き込んでいく。


俺たちは従姉妹の誕生日パーティとやらに行くというシャルロと一緒に防寒結界を試しながら冬の街道を進んでいた。


色々試行錯誤した結果、防御結界は必要ない人間もいるだろうということで利用したければその回路に魔石を別にはめるという形にした。盗賊に襲われて矢を弾き過ぎて魔石が消耗されてしまっても少なくとも凍死はしないようになるし、そこら辺を遠乗りする際には流石に矢を心配する必要が無い人の方が多いだろうということで、こういう形に落ち着いた。

馬も暖めると言うことに関しては・・・取り敢えず、馬にもこの魔具を持たせれば暖まりますということで(ちゃんと馬のように大きな対象にも使える事は確認した)、乗っている人間が使えば馬も暖めるという仕様は諦めた。


それでも、それなりに最初に考えた機能を満たす物が出来たので、長距離の行商に行く商人に試用を頼む前に最後のテストとして実際に自分たちで使うことにした。

シャルロが従姉妹のパーティに招待されたのだが、転移門や空滑機グライダーを使わずにノンビリ馬で2週間かけて行くことにしたのだ。

目的地に着いたら俺たちは街の宿屋に泊まる予定だけどね。

夏休みに、田舎へ引退した学友の親戚の家に泊めて貰うというのならまだしも、現役の貴族(シャルロの従姉妹は伯爵令嬢だった)の家に泊めて貰うのは居心地が悪そうだったので、頼みこんで別行動にしてもらった。


さて。

今日はアレクが防御結界付き、シャルロが防寒結界のみで使っているのを後ろから俺が色々ちょっかいを出しているのだが・・・中々面白い。

小さな小石を投げると、シャルロには直撃するのにアレクの周りからは弾かれる。

アレクから弾かれた小石がシャルロに当たったのは今回が初めてだったが。

落ち葉の吹きだまりがあったので、そこに二人へ向けて突風を吹かせたらどちらも髪の毛はぼさぼさになったが、シャルロだけ落ち葉が体中に着いてしまったのも笑えた。


「この防御結界って意外と良いね。風が強い時に何か飛んできてもそれを弾いてくれるし」

小石があたった肩の辺りをはたきながらシャルロがコメントした。


「だが、風が強いと魔石の消耗がかなり激しいな。遠乗り用を考えている裕福な人間に対して『これは落ち葉や小石を弾くので便利ですよ』と売り込めるかも知れないが、普通の商人だったら落ち葉に魔石を消費するよりは自分の手で払うだろう」

魔石の残量を確認しながらアレクが冷静に指摘する。


まあ、どちらにせよ防御結界の目的は商人や軍人が山賊や盗賊に不意打ちを受けた際の最初の一撃を防ぐのが目的だからねぇ。

金持ち相手に売り込むアングルが見つかったのは良いけど、副次的なものであってあまり重要なポイントではないな。


防寒結界を試している二人にちょっかいを出している俺はと言うと・・・結界なしに寒い思いをしている。

防寒結界があることでどの程度の違いが出るかを確認するために、交代で結界無しで進んでいるのだ。


はっきり言って、寒い!

真冬に外にいるというのは珍しくはなかったが、風が吹き荒れる街道での寒さというのは建物の陰にひっそり立っている時の寒さとは格段に違った厳しさだ。

俺だったらこんな寒さの中を隣町へと商売に出るぐらいだったら、どこかの金持ちの家へ泥棒に入らせて貰う。

今となればそんなことしなくても収入はあるけどさ。

商人というのは右から左へ物を動かすだけで利益をかすめ取る、美味しい商売だよなぁと昔は思っていたのだが、これだけ酷い目にあるならある程度利益がなければやっていけないというのも納得だ。


「取り敢えず、弾かれた物で周りの人が怪我をしないように、運動エネルギーを吸収する形にして下に落とすようにしよう」


「そうだな、ついでに少しでもエネルギーを取り返せたら強風の時の消耗も軽減できるかも知れないし」


とは言え、余程のエネルギーがある状況じゃないと吸収したエネルギーを魔石に蓄えることに使う魔力の方が多くなって無駄が生じるから、ある程度以上の余剰エネルギーが生じたらという形にしないと駄目だな。


幾つか改善点はあるものの、寒さを防ぐという主目的は費用的にも許容範囲内な魔石の利用で達せられそうだ。

後は空滑機グライダーで使うときになにか追加的機能を付けるか、もしくは機能を省くか、考えないとな・・・。

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