第45話 星暦552年 緑の月 30日 焼き肉パーティ
「焼くだけの食材がこんなに美味しいだなんて、意外だわ~!」
ケレナが焼き肉にタレをかけながらシャルロに笑いかけた。
「だね!今度から定期的にやろう」
シャルロも嬉しそうにお肉を頬張りながら答える。
今日は休養日で、パディン夫人もいない。
普段なら外に何か食べに行くことが多いのだが、今回は開発の終わった卓上調理器を使って焼き肉パーティをしてみることになったのだ。
貴族であるケレナやシャルロは食べたことなぞ無いだろうが、アレクはそれなりになじみがあるので、タレと食材の入手はアレクが行った。
俺は肉や野菜を切る担当。
シャルロとケレナは初めての料理に目を輝かして食べる担当・・・の様だ。
一応デザートを用意してきたらしいが。
「これって今回作った調理器でしょ?どんなところが普通の小型
一通り食べ終わって満足したケレナが暫くして尋ねた。
貴族の女としては、驚くほど食べるよなぁ。まあ、馬やら犬やら訓練して売るのを趣味としているようだから普通の貴族の女性よりずっと運動量が多いんだろうけど。
「普通の小型の
あと、料理したお肉やお野菜が付かないように新しい素材で鉄板を作ったんだよ」
シャルロが得意げにケレナに説明する。
「あと、熱を鉄板周囲で止めることで煙もかなり減らすことが出来たから、部屋の中で料理してもあまり臭わないし、煙くないでしょう?」
アレクが付け加える。
というか、熱が逃げないとか鉄板に食材が張りつかないことよりも、部屋が煙くならないことの方が重要だろうが。
暖房代も厳しい貧乏な家庭では、窓を開けて換気することで熱を逃がしては困るから台所以外での調理はきびしいのだ。
比較的裕福にしても、窓を開けて換気をしながら寒い部屋を暖めるのではかなり魔力か薪の無駄遣いになるし。
・・・とは言っても、換気で切実に困るような下町の人間はこんな新商品を買うのも難しいだろうけど。
第一、部屋が小さいから別に卓上で料理しなくてもどうせ台所が食堂と同じスペースになるし。
まあ、これも中間階級用のちょっとした便利な道具といったところかな?
経済力があってフットワークが軽いのは中間階級だからどうしても俺たちの作る商品はそこら辺の層で買われることが多いようだ。
「そういえば、学院長の甥御さんの問題は全部解決したの?」
シャルロが俺の方を向いて尋ねた。
「ああ。下手したら解決できないかと思っていたんだが、何とか終わってくれて助かったよ。
場合によっては3月ぐらいこれに潰されるかと思っていたんだよね、実のところ」
「3月もかけるとなったら一体どのくらいの報酬を求めるつもりだったんだい?第一、我々とのビジネスはどうするつもりだったんだ。流石に3月もお前さんに抜けられたら我々だって厳しいぞ」
アレクが左眉を上げて聞いてきた。
「流石に1カ月かけて見つからなかったら後は手がかりが見つかったベースで夜調べていくつもりだったよ。俺だって俺たちのビジネスを長期的に放棄するつもりは無いし」
鉄板の上に残っていた最後の一切れの肉をシャルロより一瞬早く奪い去りながら俺が答える。
「ああ~それ食べようと思ってたのにぃ~」一瞬シャルロが恨めしげに俺の皿を見つめた。
「でも、無事に終わって、本当にお疲れ様。
ウィルの目の下の隈が日に日に大きくなってきて、僕たち心配していたんだよ?」
そりゃあ、どうも。
結局皇太子からは追加報酬は無かったらしいが、まあ恐れていたよりは日数がかからずに問題が解決できたので金貨30枚は妥当なところだった。
何と言っても、学院長が皇太子が手紙を確認した後問答無用でそれを燃やしてくれたらしいので今後の心配が断たれて安心だし。
しっかし。
馬鹿な人間というのは周りに迷惑をかける物だが、上の方の人間が馬鹿だと、迷惑の度合いって何倍にも膨れ上がるんだな。
偉くなるんだからこそ、王族の教育はビシバシ厳しくやって欲しいもんだ。
・・・現実的には難しいだろうけど。
それこそ、国王は孫が生まれたら退位して、孫の教育係として厳しく教えるっていうことにしたらどうかね?
どうせなら年のいった老人よりは働き盛りの人間の方が判断力とか体力もあるだろうし。
祖父だったら次期国王に厳しく当たって恨まれても怖くないし。
まあ、そんなの夢物語だが。
せめて学院長みたいに、それなりにびしっと言う人間が全ての次期国王に教育係として付いてくれることを期待しよう。
つうか、付いていたのにあれになったんだと考えるとかなり怖いな・・・。
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