第3話 カルガモへのイラ立ちの理由

いよいよ引っ越し先の、目的の川に辿り着いた。

とは言っても、川の上に架かっている橋にだが。

まず、母ガモがお手本を見せるように、川へとジャンプした。

続いて前から順番に赤ちゃんガモ達が、躊躇いも見せず、ジャンプして橋から川へと落ちていった。

一番最後の菜々子の番になったが、

(こんな高いところからジャンプなんて出来ないよ。)

怖くて、全身が震えて、身動き一つ出来なかった。


母ガモや他の赤ちゃんガモは皆、川で悠々と泳いでいる。勇気を出して飛ぼうとするが、どうしても、菜々子だけが飛び込めなかった。


しばらくすると、母ガモが菜々子のところへ飛んできた。

ホッとしたのも束の間、

母ガモは菜々子を見て、

『アンタは私がいないと何にも出来ないのね』

そう言って、いきなり後ろから菜々子を突き飛ばした。

何も言えず、菜々子は暗闇へ落ちていった……。



ハッと菜々子は目を覚ました。

(夢か……。怖かった。)

心臓がバクバクと早鐘を打ったみたいに鳴って、苦しい。

(落ち着け。大丈夫大丈夫)

しばらくすると鼓動が落ち着いてきた。

(今、何時だ?)

ベッド横の棚を見ると、電子時計がPM.9時を表示していた。

思ったより、時間が経っていなくてホッとした。


菜々子は、さっきの夢を思い返すと、何故カルガモの親子に苛立つのか、少し分かったような気がした。


優しい人間達に見守られながら、応援されながら、引っ越ししていくカルガモ達が羨ましかった。


人間は生きていくなかで、このままだと目指している場所へ辿り着けない、間違った道を選んでも、誰も教えてはくれない。


さっき、テレビで見たカルガモ達は、川へのルートを離れると、さりげなく周りの人間が川へ誘導したり、車を止めたりしてくれていた。


でも、私がどんなに困っていても、辛そうにしていても、周りの人間は私の方など見てはいない。誰も手をさしのべようとはしてくれない。


菜々子はそんな風に思い始めて悲しくなってきた。

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