カルガモの親子

青野ひかり

第1話 カルガモ親子のお引っ越し

テレビを見ていると、『カルガモ親子のお引っ越し』という特集が始まった。


夕飯時の食卓で、菜々子は思わず大きなため息をついた。

横に座っている母は、

「今年もやるのね~。」

と楽しそうに言いながら、テレビの音量を上げる。

父は相変わらず何を考えているのか分からない顔で、目の前の唐揚げを黙々と食べていた。

テレビのチャンネルを一刻も早く変えたいが、母がこんなにノリノリだと変えられない。この家の主導権は母が握っている。


幸い、さっきの菜々子のため息は誰にも気付かれなかったようだ。

母は、カルガモの卵がカラスに食べられれば、「カラスのバカー!」と罵り、カルガモの赤ちゃんが迷子になれば、「そっちじゃないよ~!」とハラハラしていた。

父はテレビを見つつも、何も言わず食事を進めていた。

菜々子の食欲は人知れず減退していった。


菜々子は毎年放送される『カルガモ親子の引っ越し』特集が大嫌いだった。


うまく説明できないが見ていて、イライラしてくるのだ。カルガモを必死に応援する母にも何故か、ムカムカしていた。


菜々子は一分一秒でもこの場に居たくなかった。

自分の分の食事を何とか胃に押し込み、いつもなら母と二人で後片付けをするのだが、

「ちょっと胃が痛いから、横になってくる。ごめん」

と言って、食卓から逃げ出した。

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