第45話

 メアリーの発熱から三日が経った。

 あおいがのんびりしていると、家の外から呼びかける声がした。


「こんにちは、あおい」

「はい、今、ドアを開けますね」

 あおいがドアを開けると、クレイグがドアの外に立っていた。


「あら、クレイグ様。って、あら? もう一人は……」

「こんにちは、あおい。もう私、良くなったわ」

 メアリーがクレイグの後ろから、ぴょこんと顔を出した。


「え!? メアリー様、もう出歩いて良いんですか?」

 クレイグが渋い顔をして答えた。

「まだ寝ていてくださいと言ったのですが、どうしても着いていくと言って聞かなかったもので……」

「としまと呼んで悪かったわね、あおい。プリン、美味しかったわ」


 今までと違う素直なメアリーの言葉を聞いて、あおいはいぶかしがった。

「メアリー様、なにか企んでいるんじゃ無いでしょうね?」

「ちがうわよ。やっぱり失礼な泥棒猫ね」

「……メアリー様」

 クレイグがメアリーの肩に手を置いて、首を横に振った。


「今日はあおいさんに是非直接お礼を伝えたいと言うのでつれてきたのですよ?」

「……そうだったわ」

「お礼?」


 メアリーは気まずい顔をして、俯いてからあおいに言った。

「プリンのお礼。それと、お願いがあるの」

「はい、何でしょうか?」

 あおいの問いかけに、メアリーは顔を上げた。

「あおいさん、アレックス様の分もプリンを作って下さらない?」

「はい?」


「どうやらアレックス様に、メアリー様の風邪がうつってしまったようなのです」

「あらら」

 クレイグはふう、とため息をついた。

「メアリー様の食べかけのプリンを味見したのが原因のようです」

「そんなことしたんですか!? アレックス様、食い意地張ってるなあ……」


 あおいはそう言って、ちょっと考えてから答えた。

「わかりました。熱冷ましプリン、また作って王宮に届けます」

「ありがとう、あおいさん」

「メアリー様のためじゃありませんよ。アレックス様のためです」


 あおいはにっこりと笑って、メアリーを牽制した。

「まあ、アレックス様が元気になればそれでいいわ。頼むわよ、あおいさん」

「任せて下さい!」


 クレイグとメアリーが帰るとあおいは早速、熱冷ましプリンを作り始めた。

「アレックス様もしょうがないな。おまけに、シュークリームも作ってあげよう」

 あおいはキッチンで、卵を割り始める。


「メアリー様、病気が治ったばかりなのに出歩いて大丈夫だったのかしら」

 あおいは一人、呟いた。

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