第37話

 宴も中盤に差し掛かった。

 町の人々も歌ったり踊ったりして、アレックスの誕生日を祝福していた。


「そろそろ、プレゼントを受け取る時間だな」

 ロイドが呟くと同時にファンファーレが鳴った。

「アレックス王子へのプレゼントがある者は、こちらへ並ぶように」

 すると、我先にとプレゼントを抱えた貴族や村人が一斉に列に並んだ。


「私も行かなきゃ!」

 あおいもシュトーレンと、クレープ一年無料券を抱えて列に並んだ。

 貴族達は宝石やマントなど、豪華な贈り物を用意していた。

「あらら、ちょっと場違いだったかな……?」


 村人の家族は、子ども達の描いたアレックスの絵をプレゼントしている。

「ありがとう」

 アレックスは子ども達の頬に軽くキスをした。


 そして、しばらく待っていると、あおいの番が来た。

「アレックス様、お誕生日おめでとうございます! プレゼントはシュトーレンとクレープの一年無料券です」

「……ありがとうございます」

 アレックスは他の人と同じようにあおいに接すると、言った。


「次の方」

 長い列は、いつの間にか大体終わりの方に来ていた。

 アレックスはプレゼントを受け取り終わると、皆に向かってお辞儀をして微笑んだ。

「ありがとう、皆様。このように祝って貰えるとは、私は幸せ者です」

 それだけ言うと、アレックスは去って行ってしまった。


 残された大量のプレゼントは、兵達が奥の方に運んでいった。

「なんだか、いつもと違う顔をしてたな、アレックス様」

 優美な笑顔を浮かべ民衆達の相手をするアレックスを見て、あおいはいつもの気さくなアレックスを思い出していた。

「どっちが本当のアレックス様なんだろう」


 あおいは一人、テラスにでると椅子に腰掛けて空を見ていた。

 すると、誰か人がやって来た。

「こんばんは、あおい」

「アレックス様!? 良いんですか? 宴はまだ途中ですよ!?」


「ずっと微笑んでいたので、顔が痛くなってきました。筋肉痛です」

 アレックスはあおいの隣に腰掛けると、自分の頬を撫でた。

「あおい、プレゼントありがとうございました」

「いいえ、大したものじゃ無くて申し訳ありません」


「それじゃ、そろそろ戻りましょうか」

 アレックスはそう言うと立ち上がり、テラスを出るとき振り返ってあおいに言った。

「あ、そうそう。プレゼントはあおいでも良かったんですよ?」


「アレックス様、それセクハラです!」

 あおいは真っ赤な顔で訴えた。

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