第27話

 ある朝、あおいはドアをノックする音で目を覚ました。


「あおい、おはようございます。今日は森に出かけませんか?」

 ドアを開けると、バスケットを抱えたアレックスが笑顔で立っていた。

「おはようございます。アレックス様。今日は早いですね。どうしたんですか?」

 あおいは寝間着のまま、アレックスを家の中に招き入れた。


「ちょっと待ってて下さいね。すぐに着替えますから」

 そう言うとあおいは、冷蔵庫に冷やしておいた紅茶とクレープをアレックスと自分の席の前に置いて、二階に上がっていった。


「朝早くに申し訳ありません」

 アレックスはしょんぼりとした様子で、並べられた紅茶とクレープを見つめていた。

「よかったら、先に食べてて下さい」

 あおいは二階から大きな声で言った。


「いえ、あおいを待ちますよ」

 アレックスは冷えた紅茶を一口だけ飲んで、階段を見つめていた。


「おまたせ致しました」

 あおいは森に行くつもりで、動きやすいように短めのスカートと、その下に長めの靴下をはいていた。

「では、早速いただきましょう」

「はい。いただきます」


 あおいとアレックスは紅茶とクレープを食べながら話した。

「ところで、今日はどうしたんですか? アレックス様」

 アレックスは気まずそうに言った。

「実は……親の決めた元婚約者と顔を合わせたくなかったので、逃げ出してきました」


 あおいは紅茶を吹き出しそうになった。

「だ、大丈夫なんですか!? それ!? って、アレックス様婚約なさってたんですか?」

「はい。今は第二王子である弟が婚約することになっておりますし、私は無能な兄として印象づけを行っており婚約破棄もされているので問題ないかと思います」


 アレックスは、もういつも通りの表情でクレープをかじっている。

 きょとんとしているあおいに、アレックスは言葉を補った。

「結婚は家同士のつながりですから、問題ないのですよ。あおい」

 アレックスはにっこりと笑った。


「それでは、食事も終わりましたし、森に出かけましょう」

「え、ええ。アレックス様」

 あおいは戸惑いながらも小さなバッグを抱え、アレックスの後について歩いて行った。


 森に着くと、アレックスは芝生に寝転んで大きくのびをした。

「外は気持ちが良いですね。城の中は窮屈でたまりません」

「そんな事言ったら、クレイグさんに怒られますよ」

 あおいはそう言って、アレックスのとなりに腰を下ろした。


 鳥がさえずっていて、風が心地よい。

 なんだか眠くなってしまう。あおいが隣を見ると、アレックスはすやすやと寝息を立てていた。


「アレックス様、疲れてたのかな?」

 あおいはなんとなく、アレックスの頬を突いてみた。

「あ、意外と柔らかい……」

「あおい、何をするんですか?」

 アレックスが目を開いて、あおいを見つめた。


「起きてたんですか? アレックス様」

「あおいが突いたから、目を覚ましたんですよ」

 アレックスは笑いながら、起き上がるとあおいの隣に座り直した。

 顔が近い。あおいは焦った。


「あ、そうそう。あたらしい錬成物をもってきました! 元気の出るクリームウエハースです!! 最近、アレックス様元気がないようでしたから、作ってみました!!」

 あおいはカバンを開くと、ピンクの包み紙を4つ取り出した。


 アレックスはウエハースを受け取ると、不思議そうに眺めてから、一口かじった。

「パチパチして面白い食感ですね。確かに気力がみなぎってくる気がします」

「私も一つ、食べますね」

 あおいもウエハースを一口食べた。


「あおいといると、なんだか元気になりますね」

「私もアレックス様と居ると楽しいです」

 二人はもう一つずつウエハースを食べ、今度は二人とも芝生に寝転んだ。

「空が青いですね」

「そうですね」


 のんびりとした時間が流れた。


「さて、そろそろ城に戻ります」

「そうですか、私もお店を開かないと」


 二人は森を後にしてあおいの家で別れを告げると、それぞれ目的地に向かって歩き出した。

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