第20話

 あおいが一日の営業を終えて、店を閉めているとアレックスがやって来た。

「こんばんは、あおい」

「こんばんは、アレックス様。ごめんなさい、もう今日はお店閉めちゃってるんです」

 アレックスは笑顔を浮かべた。


「今日は、良かったら一緒に食事に行きませんか?」

「え!? 良いですけど、あんまり高級な所は無理ですよ?」

 あおいがそう言うと、アレックスは笑って答えた。


「それでは、この前ロイドさんと行ったお店はいかがですか?」

「はい、あそこのお店なら大歓迎です。美味しかったからまた行きたいと思ってました」

 あおいは急いで店の片付けを終わらせると、アレックスに声を掛けた。


「準備が出来ました」

「それでは向かいましょう」

 アレックスはあおいに手を差し出した。

 あおいはドキドキしながら、その手に自分の手を重ねた。


「このお店です」

 あおいはアレックスとつないでいた手を離し、お店の看板を指さした。

「ビストロですね。それでは入りましょうか」

 重いドアを開くと、人々のざわめきと料理の美味しそうな匂いが漂ってきた。


「こんばんは」

「いらっしゃい、お二人様ですね」

 店員はテーブル席を用意すると、あおいとアレックスをそこに案内した。


 アレックスはメニューを眺めると直ぐに注文を決めた。

「葡萄酒をボトルで。グラスは二つ。あとは煮込みとステーキと、サラダをお願いします」

「はい」

 店員はメモを取っている。


「あおいはどうしますか?」

「わたしは、お魚のムニエルと、煮込みで。あとはお茶をください」

「はい、承りました」

 店員は注文を取り終わると、調理場の方へ去って行った。


「今日は飲みすぎないようにします」

 あおいはアレックスに言った。

「二日酔いにならなければ、多少飲んでも構わないのでは? 私がちゃんと家まで送りますよ」

 アレックスは笑顔で言った。


「アレックス様とこんな風にお食事をするなんて、ちょっと新鮮です」

「そうですね、いつもあおいの手作りのクレープを頂くばかりですからね」

 話していると、簡単なおつまみとしてチーズの盛り合わせとサラミ、葡萄酒が出てきた。

「お待たせ致しました」


「それじゃ、頂きましょう」

「はい、頂きます」

 アレックスとあおいはおつまみをつまみながら葡萄酒で乾杯をした。

「やっぱり仕事の後のお酒は美味しいですね、アレックス様」

「そうですね、あおい」


 あおいがチーズをつまみ食べていると、アレックスは言った。

「あおいはまた冒険しに行かないのですか?」

「行きますよ。でも、戦う力は弱いので、後方支援の魔法でも使えたら良いなって思ってます」


 アレックスは頷いた。

「それなら、王宮魔術師のクレイグに話をしておきましょうか」

「え? いいんですか?」

「彼もあおいに興味を持っているようです」

 あおいは、アレックスの笑顔が少し曇ったように感じた。


「お料理です」

「ありがとうございます」

 アレックスとあおいの間に、ステーキと煮込み、魚のムニエルとサラダが置かれた。


「どうぞ、あおい」

 そう言うとアレックスはサラダとステーキを取り分けてくれた。

「ありがとうございます。アレックス様」

 あおいも魚のムニエルを小皿に取り分けると、アレックスの側に置いた。


「いただきます」

「いただきます」

 アレックスとあおいは料理に舌鼓をうった。

「美味しいです」

「そうですね」


 アレックスは葡萄酒をおかわりした。

「あおいも飲みますか?」

「はい」

 あおいの空になったグラスに、アレックスは葡萄酒を注いだ。


「やっぱりこのお店は美味しいですね」

「そうですね。ここは有名なビストロですから」

「うふふ」

 あおいは美味しい料理とお酒、アレックスの笑顔で上機嫌だった。


「あおい、そろそろお茶を飲んだ方が良いのでは無いですか? 結構酔ってきているようですよ?」

「アレックス様が送って下さるんですよね? だったらもうちょっと飲んじゃいます」

 あおいは嬉しそうに微笑みながら、店員を呼ぶと、葡萄酒をもう1本頼んだ。


「アレックス様はお酒、強いんですね。顔色も変わってないし」

 赤い顔をしたあおいが言った。

「あおいはもう、酔っ払っていますね」


「はい」

 アレックスとあおいは食事を終え、残りの葡萄酒を飲み干すと店を出ることにした。

「お会計は1ゴールドです」

「はい、おねがいします」


 アレックスが支払いを済ませようとすると、あおいが拒んだ。

「私が払います! アレックス様にはお世話になっているからお礼です」

「いいえ、女性に払わせるわけにはいきません」

 アレックスは少し強引に支払いを済ませ、店を出た。


「ありがとうございました」


 夜の風は少し涼しくて心地よかった。

「アレックス様、ごちそうさまでした」

 あおいはアレックスに抱きついた。

「あおい、こんなところで抱きつかれては困ります」

「アレックス様って、胸板厚いんですね。すごい筋肉」

「……突かないで下さい、あおい」


 アレックスは酔っ払ってまとわりついてくるあおいをたしなめながら、あおいの家に送っていった。

 あおいの家に着くと、あおいはアレックスに尋ねた。

「アレックス様は、私のこと好きですか?」

「そうですね、好きですよ」


 アレックスの言葉に、あおいは満面の笑みを浮かべた。

「それじゃ、私にキスして下さい!」

 あおいの言葉に動揺しながら、アレックスはあおいの頬にキスをした。


「あおい、ずいぶん酔っ払っていますよ。気をつけて、家に入ってくださいね」

「はい。アレックス様」

 あおいはアレックスの頬にキスをした。

 アレックスの顔が赤くなった。

「本当に、あおい一人では、お酒を飲んではいけませんよ」


 アレックスはあおいが家に入り鍵を掛けるのを見届けてから王宮に戻っていった。

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