第18話
翌日、あおいは作っておいたポーションゼリーやエリクサー金平糖、毒消しあんパン、攻撃力の上がるカレー焼きまんじゅうなどを持って、街の中の店に向かった。
あおいの店は小さかったので、商品ケースにはあまり商品が並べられなかった。
「しょうがない。売れたら補充するようにしよう」
クレープを焼く機材を動かして、冷蔵庫に作りたてのホイップクリームと持ってきた錬成物をしまった。
「よし、店を開こう!」
あおいは店のシャッターを開けた。
「さあ、クレープはいかがですか? パワーアップする食べ物も売ってますよ!」
しばらくすると、最初のお客さんが来た。
アレックスだった。
「おはよう、あおい。開店おめでとう」
アレックスは小さな花かごをあおいにプレゼントした。
「ありがとうございます、アレックス様」
「さっそくだが、薬草クレープを一つお願いしよう」
「はい、ありがとうございます!」
あおいは店の中に入り、クレープを焼き始めた。
「おや、懐かしい物を売っているね」
「はい、作れる物を持ってきてみました」
「これはポーションゼリーですね」
あおいとアレックスが話をしていると、新しいお客さんがやって来た。
「いらっしゃいませ! あおいのクレープ屋へようこそ!」
あおいはアレックスとの会話を切り上げて、お客さんに挨拶をした。
「はじめまして。宮廷魔術師のクレイグ・デファーと申します」
クレイグは銀髪をボブに切っていて、青い目をしていた。
「はじめまして。川崎あおいです」
あおいは薬草クレープを持ってきて、アレックスに渡した。
「王子様がわざわざお越しになるお店を是非、拝見したかったのです」
「クレイグ、私の後をつけてきたのですか?」
「人聞きの悪いことをおっしゃらないでください。たまたまお見かけしたので、声を掛けようとしたけれどタイミングを逸しただけですよ」
あおいは行列が出来てきたので、クレイグとアレックスに声を掛けた。
「あの、ご注文をおねがいします。他のお客様もいらっしゃるので」
「これは失礼致しました」
クレイグはそう言うと、ショーケースの中を見て言った。
「エリクサー金平糖と、ホイップクリームのクレープをお願いします」
「はい。150シルバーです」
クレイグは代金を支払った。
「あおい、頑張って」
「はい、アレックス様」
アレックスはクレイグの様子を見ながら、店を後にした。
「おまたせしました。クレープと、エリクサー金平糖です」
あおいはクレイグに商品を渡した。その手の冷たさに、ぞくり、とした。
「ありがとう、あおいさん。商品が気に入ったらまた来ます」
「おまちしています」
あおいは営業用スマイルで答えると、次のお客さんの注文を聞き始めた。
夕方前に、クレープの材料が切れた。もってきたポーションゼリーや毒消しあんパンなども、思っていたより売れて、あおいは喜んでいた。
そのとき、声を掛けられた。
「お店まだやってる?」
「ごめんなさい、もうおしまいなんです……ってロイドさん!?」
ロイドは申し訳なさそうに頭をかいている。
「悪いな、開店祝いに来ようと思ってたんだが、討伐依頼が入っちゃって」
「あの、残りもので申し訳ないですけど、もって帰ります?」
あおいはそう言って、エリクサー金平糖を一袋取り出した。
「じゃあ、遠慮無くもらおうかな。今回の敵は強かったから疲れてるんだ」
ロイドはあおいから金平糖をうけとると、笑顔でありがとうと言った。
「今日は、開店祝いだから飲みに行ったりしないのか?」
「しませんよ! アレックス様にずいぶん叱られたんですから」
「もう大人なんだから、放っておいても大丈夫……じゃないからな、あおいは」
ロイドはそう言って、おかしそうに笑った。
「なんだか、アレックス様はあおいのお父さんみたいになってきてるな」
「そんなことありませんよ」
あおいは赤い顔をして、頭を振った。
「じゃ、これから頑張って」
「はい、ありがとうございます」
あおいは売り上げと、少し残った錬成物をもって家に帰った。
「あーあ、疲れた」
あおいはシャワーを浴びてから、売り上げと残った商品をチェックした。
「うーん、クレープは売れるけど、錬成した商品はなかなか売れなかったな」
あおいは夕食代わりに、薬草クレープと毒消しあんパンを食べた。
「クレイグさんって、クールな感じでちょっと今まであった人とは違うな」
あおいはお腹がいっぱいになったので、寝ることにした。
「明日もお客さん、来ますように」
あおいは疲れた体をベッドに沈み込ませた。
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