第16話

 あおいが目を覚ますと、目の前にアレックスの顔があった。

「あおい、扉の鍵が開いていましたよ」

「きゃあっ! アレックス様!?」

「呼んでも返事がなかったので、勝手に入ったことはお許しください」


 アレックスは困った表情であおいを見ていた。

「はい、差し入れのパンとチーズです。二日酔いはもう直りましたか?」

「え!? どうしてそれをご存じなんですか?」

 アレックスはため息をついた。

「冒険者の館で、カイとロイドさんから聞きました」

「……あのおしゃべりめ。言わないって言ったのに……」


 アレックスの視線は厳しかった。

「あおい、あなたも年頃の女性なのですから、一人で酒場などに行ってはいけませんよ」

「はい、アレックス様」

 あおいはアレックスの顔を見るのが怖かった。


「一緒にロイドさんがいたから良いようなものの」

 アレックスはもう一度ため息をついた。

 あおいは身を小さくして俯いた。

「もう、抱きついたりしません……」


「抱きつく!? なにをしたんですか? あおい」

 アレックスの声が大きくなった。だれも、あおいがロイドに抱きついた話はしていなかったらしい。

「え、あの、その」

「あおいはよっぱらって、ロイドさんに抱きついたのですか?」

「……はい」

 アレックスの目が冷たい。あおいは布団の中に潜りたくなった。


「あおい、つぎからお酒を飲むときは私も誘ってください。ひとりで飲ませるのは危険すぎます」

「はい、わかりました」

 あおいはアレックスに、お酒の注意をされるとは思っていなかった。


「ところで、今日は何の用事で家にきたのですか?」

 あおいの問いかけにアレックスは目をそらした。

「市場にも、図書館にもあおいが現れないので、何かあったのではないかと思ったのです」

「アレックス様……。ありがとうございます」

 あおいは、ただの二日酔いだったことが恥ずかしかった。


「もう、ロイドさんと二人きりで飲んだり、一人で飲んだりしません」

「そうしてくださると安心です。ロイドさんも人が良くて助かりました」

「はい」

 アレックスは、持ってきたパンとチーズを台所において、あおいの家を後にした。


「ああ私、ほんとに、何やってるんだろう」


 あおいはアレックスの持ってきてくれたパンにチーズを挟んで食べた。

「アレックス様、優しいなあ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る