第11話

「さてと、今日は雨だし、図書館でも行ってみようかな」

 あおいはカッパを着て図書館に向かった。


 図書館の中はちょっと湿った匂いと本の匂いが混ざっていた。

「うん、たしかあの辺りだよね」

 あおいは錬金術関係の本を手に取った。

「うわー。やっぱり爆薬とか劇薬とか結構載ってる。でも、ちょっと怖いかな」


 いくつかの本を見比べて、あおいはピンク色の本を手に取った。

「この本に載ってる能力向上系のレシピは使えそうだわ」

 あおいは本を持って、空いている席に着いた。

 しばらく夢中で読んでいると、声を掛けられた。


「こんにちは、あおい。勉強熱心ですね」

「アレックス様!」

 あおいは驚いて声を上げてしまった。

「図書館ではお静かに」

 アレックスはいたずらっぽく笑うとあおいの頭をぽんぽんと軽く叩いた。


「なんで、アレックス様は私の頭を叩くのですか?」

 あおいは不満げに言った。

「なんとなく、叩きたくなる頭なのです」

 アレックスは微笑んでいた。


「今日はどうしたのですか?」

「雨だし、錬金術の勉強をしようと思って」

「そうですか。なにか面白いものはありましたか?」

「能力向上系の薬が興味深いと思って読んでいました」


 アレックスは頷いた。

「また、パンやまんじゅうを食べさせるつもりですか?」

「アレックス様の意地悪……」

 あおいはそう言って、立ち上がり本を本棚にしまった。

「それでは、私はこの辺で失礼します。あおいも帰り道で転ばないように気をつけて」

「私、そんなにドジじゃ有りません!」


 二人は図書館を出たところで、歩き出すと、あおいはぬれた大理石で足を滑らせた。

「きゃあっ」

「あぶない!」

 アレックスはあおいを抱きしめた。

「まったく、これだからあおいからは目が離せないんですよ」

「……ごめんなさい」


 あおいは背に回された手の温かさと、目の前にあるアレックスの美しい顔で、ドキドキが止まらなかった。

「大丈夫ですか? あおい。ぼうっとしているようですが」

「あ、えっと、大丈夫です!」

 あおいは自力で立つと、アレックスにお礼を言った。

「ありがとうございました」

「家まで送りましょうか?」

「もう大丈夫です!」


 あおいは鼓動が収まらないのを感づかれないように、すばやくアレックスから離れた。

「それでは帰ります」

「はい、それではまたお会いしましょう」

 アレックスはあおいの気持ちに気付いていないのか、のんきに手を振っていた。

「もう、アレックス様ったら。心臓が止まるかと思った!」


 あおいは家に帰ると、素早さ向上の薬と、防御力向上の薬を試しに作ってみた。

「ああ、また、お菓子になってる……」

 出来上がったのは、ちょっとすっぱい素早さUpキャンディと、チョコレート味の防御力Upクッキーだった。

 あおいはがっくりとうなだれながら、一つずつ味見をした。

「うん、味は良い」


 あおいはキャンディとクッキーをそれぞれラッピングして、棚にしまった。

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