第5話

アレックスは時々振り返って、あおいがついてきているか確認しながら歩いた。

あおいはアレックスに遅れないよう、少し小走りになっていた。

「手をつなぎましょうか? あおいの歩くスピードに合わせたいので」

「ええ。分かりました」

アレックスの手は大きくて、思ったよりもゴツゴツとしていた。


あおいは自分の心臓が高鳴るのを感じた。

「どうしました、あおい?」

アレックスが振り返った。

「顔が赤いようですが、もう少しゆっくり歩いた方が良いですか?」

「いいえ! 大丈夫です」

あおいはつないだ手に力が込められるのを感じて、ドキドキが止まらなかった。


「城の図書館は初めてですか?」

「はい」

アレックスの質問にあおいは頷いた。

「では、そろそろ着きますよ」

石造りの質素な建物の前で、アレックスは立ち止まり、あおいの手を離した。


「ここです」

「意外と地味なんですね」

「入りましょう」

アレックスが扉を開くと、本の匂いが漂ってきた。


「確か、この辺にあったと思うのですが」

アレックスは本棚を指さしながら、何かを探していた。

「いろいろな本がありますね」

あおいはしゃがみ込んで、本のタイトルを眺めている。

「あった。この本ですが、古い文字で書かれているのであおいに読めるかどうか心配ですが」

アレックスは本棚から一冊の本を抜き出して、あおいに渡した。


「錬金術について、ですか」

あおいが本のタイトルを読むと、アレックスは驚いた。

「古代の文字がよめるんですね」 

「ええ」

あおいは本を開いた。


そこには金の作り方、毒薬の作り方、ポーションやエリクサーの作り方が載っていた。

「へー。面白いですね」

「この本は貸し出しはしていませんから、ここで読んでいくと良いでしょう」

「はい、分かりました」

あおいが答えると、アレックスは安心したように笑みを浮かべた。


「僕はこれから用事があるので、ここで失礼します」

「ありがとうございました。アレックス様」

あおいは本の内容を覚えると、さっそく家に帰って試しにポーションとエリクサーを作ってみることにした。


「ポーションもエリクサーも、材料を買ってから帰らなきゃ」

市場にでかけて、必要な薬草や聖水を買うと、1ゴールドがあっという間になくなった。

「結構高いんだな」

あおいは呟きながら、家に帰った。


家に着くと早速ポーションから作ってみた。

材料を魔法の釜に入れ、かき混ぜる。

まばゆい光が、釜の中からあおいを照らす。

「出来たかな!?」

あおいがワクワクして中を覗くと、そこには透明なぷるぷるしたものが出来上がっていた。


「あれ? これって……ゼリー?」

出来上がったのはポーションゼリーだった。

「ああ、私食べ物しか錬成できないんだった」

あおいはがっくりと肩を落とした。

ポーションゼリーは一食分ずつ分けて丁度いい大きさの瓶に詰め、冷蔵庫にしまった。


「さて、エリクサーはどうなるのかな?」

あおいはくじけずに、エリクサー作りに取りかかった。

いくつかの薬草に聖水、砂糖をいれて釜の中をかき混ぜる。

また、釜の中が輝いた。

「出来た! どれどれ」

釜の中にあったのは、エリクサー金平糖だった。

「可愛いけど、金平糖ってどうなんだろう……」


あおいは金平糖を一食分ずつセロファンでラッピングした。

「試しに作って見られるのはこれくらいか」

あおいはのびをしてから、休憩するため紅茶を入れた。


紅茶を飲んでいると、ドアをノックする音が聞こえた。

「はい、どなたですか?」

「俺だよ、ロイド!」

あおいはドアを開ける。

「なんのご用ですか?」

ロイドは笑顔で言った。


「明日、森に薬草をつみにいくんだけど、一緒に行かないか?」

「行きます」


こうして、あおいは初めて冒険に行くことになった。

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