チート嫌いの賢者ちゃんは、努力でチーター勇者達相手に無双する

羽消しゴム

第1話

「これは由々しき事態……テンペストちゃん」


そう言って、机の上でゲン〇ウポーズをとる少女の名はアクセリア=ルシフィード。齢14歳のあどけない少女の顔を残しながら、魔法の神髄を究めた賢者である。


そもそも賢者というのは、魔法と魔術の合成術である魔導を扱える事が条件だ。

勿論、魔法と魔術の技量が高く、それに対しての知識も深くなければ完成し得ない。言わば魔の到達点というのが魔導だ。


しかし、アクセリアはそれを12歳の頃に、既に完成させていた。

勿論彼女本来の才覚も有るだろうが、一番は彼女の並々ならぬ努力があったからだと言われている。


3歳にして魔を学び、5歳にしてモノにし、8歳にしてオリジナルの魔法と魔術を


そもそも、魔法は己の魔力を使い事象を改変させるもので、魔術は魔法陣を用いて干渉し、産み出す、もしくは破壊するのが魔術だ。

この説明を聞いて分かる通り、どちらの魔も習得難易度は高い事が分かるだろう。


しかし、そんな麒麟児とも呼べる賢者のアクセリアですら、とある悩み事があった。

それは───。


「は、はぁ……?それは一体どのような?」

「……最近、勇者の召喚が頻繁。チート野郎増えすぎ。私、仕事なくなる……とっても困る」


異世界から召喚されてきたという勇者達のお陰で、彼女の仕事がなくなるということだった。

いやいや、仮にも賢者なんでしょ?仕事なくなる訳ないじゃん!と疑問の声が挙がると思うが、実はそうではない。


問題なのが、異世界から召喚された勇者達はみな、チートスキル等という恩恵を持っているということだ。

これがもしそれほど強力でなければ、賢者ちゃんの仕事はなくなる心配はないだろう。


だが、勇者達のスキルはその名の通り、チートズルと言っても過言ではない。

アクセリアより若干年上という年齢でありながら、天を裂き、山を砕き、地を割る。そんな出鱈目なスキルを持ったのが彼らだ。


「この前、新しく召喚された勇者。魔法と魔術初めてなのに、教えたらすぐに魔導使ってた」


感情を見せない碧眼で淡々とそう告げるアクセリアは、端から見れば何も思っていないように見えるかもしれないが、彼女との付き合いが長いテンペストという少女はわかっていた。

めちゃくちゃ怒ってる──と。


「ま、まぁ確かに。ですが少なくなる事はあるでしょうけど、無くなる事はないのでは?」


これ以上刺激しては駄目だと宥めに掛かる。その言葉に少し不満げな顔して、だが何も言わずに机に突っ伏した。

どうやら拗ねたようだ。


彼女──アクセリアにとって、魔法や魔術などの“魔”は、初めて自分の世界に彩りを与えた素晴らしいものだった。


魔力を込めれば、その期待に答えて赤く激しく燃えるし、練度を上げれば少ない魔力量で100%以上のパフォーマンスを発揮する。


言わば、魔法とは友達のようなものであり、自分の努力を写す鏡だと、彼女は本気でそう思っている。

だからこそ、賢者という役職につけた。


そんな彼女からすれば、何の努力もしていない異世界から来訪してきた人達が、自分の努力の集大成とも言うべき魔導を易々と扱われるのが、自分の努力を貶されているようで仕方ないのだ。

此方が10歩進めば、彼らは20歩進んでいる。いや、50歩かもしれない。


そんな埋められないような差が、確かにそこにあった。

そして、その差も埋めようとも縮める事が出来ない自分にも怒りを向けていた。


「ま、まぁまぁ。そんなに拗ねなくても……す、少なくとも私は賢者様の凄さを知っていますし……」

「む……また賢者様言った……私の事は賢者ちゃんと、そう呼べと言った筈……」


くっ、折角恥ずかしさを堪えて励ましたのにぃっ!変なところで細かいよこの娘ぉっ!というテンペストの嘆きは、アクセリア──もとい賢者ちゃんには届かなかった。


「……まぁ、別に言わなくてもいい。私は全く気にしてない。本当にこれっぽっちも気にしてない」

「ぜ、絶対に嘘ですよね………」

「私は嘘つかない……そんなことよりも、今私の仕事を無くさないようにする良い案を思い付いた」


嫌な予感がする、と直感を働かせ、直ぐにその場を離れようとする──が、地面から伸びた蔦がテンペストの腕と足をがっしり掴んで離さない。


「心して聞いて欲しい。今先程私が思い付いた名案とは───」


聞きたくない!何を企んでるか興味もあるが、それよりも巻き込まれて被害に遭うのは御免被りたい。


だが、そんなテンペストの願いとは裏腹に、無情にも時は進む。


「──あのチート勇者達をぼこぼこにする」

「……そ、それはそれは……とんだですねっ!?で、ですが私用があるので!し、失礼しま──」

「テンペストちゃん。貴女は私の助手、少なくとも私はそう思ってる。だから──協力、して?」


無理矢理にでも蔦を引きちぎり、逃げようとしたその時、またあの見透されるような碧眼を此方に向けて、そう問うた。


嗚呼、また──まただ。

この彼女の決意に満ちた瞳を見るのは初めてではない。


テンペストは、彼女と初めて会った時に思いを馳せ、そして───。


「し、しょうがないですね。貴女の一番助手が私ですから、幾らでもお手伝いいたしますよ……ほ、ほんとはしたくないですけど」


「む、テンペストちゃんならそう言ってくれるって思ってた。それでは、早速始めよう」




───あのチートに自惚れる勇者達の鼻っ面を折りに。

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チート嫌いの賢者ちゃんは、努力でチーター勇者達相手に無双する 羽消しゴム @rutoruto

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