第11話 5月は第3王子の憂鬱
『いや。揉みたいというわけではなく、
第2第4と出たから私はどうなのかと…』
と、珍しく慌てたように付け加える兄上に戸惑う。
冷静沈着、品行方正でいつも穏やかな笑みを浮かべている第1王子が顔を赤らめながら
『いや、失言だった。』と頭を下げる。
普段は女性に全く興味無さげな兄上だが、あの手の動きや今の発言から、そうでもないと確信する。
兄上も母上に何か言われた事があるのかも…。
『それにしても、そんなに気にするほど小さくもない気がするが…。』
あれ?まだその話するんだ?
白薔薇に興味を持たれるのは不本意だけど、白薔薇の名誉の為にもここは弁明しておこかなくては。
『小さくないよ。ちょうどいいサイズだよ。すっごくきれいだし。』
身振り手振りで言う俺に
『…見たのか?』
!やぶ蛇。
『…見てないよ!』
『まだ若いし、これからだし、でも白薔薇が目指すほど巨乳になって欲しくはないかな。
今で充分だと俺は思う。』
何を熱弁しているんだ、兄相手に、俺は。
黙って聞いていた兄上は、真顔になり
『わかっているとは思うが、結婚までは何もするなよ。』
と言ってくる。
『お前達は、正式な婚約もしていないんだから。』
ドクン
『…わかってるよ。』
この婚約は俺の母である第1王妃と、白薔薇の母である白薔薇伯爵との間でなされたもので、正式なものではない。
婚約は周知の事実となっているが、王の許可もなければ文書もない、となればいつ覆ってもおかしくない。
加えて彼女の父はこの婚約に反対だ。
早く正式な婚約まで持ちこみたい。
婚約式をすぐにでもすませて、卒業後に即結婚ーーと言う流れが理想。
今はどこからどうすればいいのかわからず、八方塞がりな状態だ。
とりあえず彼女の父に認めてもらう為にも、品行方正(俺が?って笑っちゃうけど)学業も、剣の腕も、学園での社交に公務も、何もかも手当たり次第にやっている。
すでに色々手一杯だ。
なのに。
『ムネヲモム』という新たなミッションが加わってしまった。
兄上には何もしてないと言ったけど、本当は、した。
ちょっと…制服の上から触った。
俺が断ったとき、白薔薇がすかさず
『じゃあ第2王子か第4王子にやってもらうからいい』
と言うから。
最初から、俺が断ることがわかっていてその答えを、用意していたのか?
2人のどちらかに気があるのか?
特に、最近仲が良さげだった第4王子の顔がちらつき
イライラ、モヤモヤする。
その場ではとりあえずこらえた。
でも頭から離れなくて。
何も手につかず、眠れなかった。
次の日、また同じようにその話をふるから。
カッとなって下校中の馬車の中で、
ほんの一瞬。
なんか固い。
と思った途端、顔を真っ赤にして慌てふためいてる俺とは対象的に、彼女は無表情だった。
まさに〈すん〉という感じ。
どういう表情か読み取れなく、そのまま彼女の邸について無言で帰った。
あれで良かったのか?
触り方が悪かったのか?
もっとちゃんと揉まなければならなかった?
何が正解なのかわからない。
誰かに相談しようにも、事が事なので迂闊に話せない。そんな時に、兄上から声をかけられた。
兄上なら(まあ、浮いた話は聞かないが)、一応皇太子でもあるし、成人してもいるのでその手の経験はあるかと…。
ないにしても皇太子教育として何かしら秘技的なものも教わっていたりするかも、と、思い聞いてみたけど、特に何もないらしい。
経験豊富に見える、侍従兼従兄弟の黒に聞けばいいのだけれど、『何をやっているのです、貴方は…』と言われそうで聞けない。
特に奴は最近白薔薇との婚約に難色を示しているし。
最初に婚約の話を、すすめてくれたのは彼なのに。
まあ、誰に反対されても結婚するけど。
はじめて会った時からずっと白薔薇の事が好きだ。
ふわふわと風になびく白金色の髪
やわらかそうな乳白色の肌
瞳は光の辺り方に、よって紫にもピンク色にも見える不思議な色
甘い高めの声
おっとり見える見た目とはギャップのある、活発さ
突拍子もない発想と行動に
天真爛漫な笑顔
いつもそばで見ていたい。
彼女の事を1つも見逃したくない。
誰にも取られたくないー。
で、ムネヲモムだ。
正直、今まで想像したことはあった。
どんな風に…とか、どんな順番で…とか。
特に人形事件からこっちは四六時中想像して…
彼女の理想がどんなだかはわからないけど、
何か違ったのだろうことはわかる。
あの、〈すん〉とした表情…
明日こそはリベンジだ。
兄上の
『とにかくもっと思ったことを口に出した方がいい』というアドバイスを心に刻んで、入念にイメトレする。
今夜も眠れそうにない、が、
ちょっと前より距離がぐっと近づいてるのは正直嬉しい。
早く結婚して、ずっと一緒にいたい。
そんなこんなで夜があけていく。
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